いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

原子力発電所の軽作業員の仕事

私は原発の町〃東海村〃の最寄り駅、JR東海駅に降り立った。
ロータリーにあるのは、郊外型
の大型スーパーのみ。あたりでジ
ャージ姿の女子高生たちがキャッ
キャと戯れている。一見、何の変哲もない田舎町だ。
「いやあ、遠いところをわざわざすいません」
金子氏(仮名)は、約束どおりキヨスクの前に待っていた。

人なつっこい笑顔、少しうだっの上がらなそうな風采は、過
去に会った〃裏仕事一師〃たちとまるで違う。
「お休みなんですか」
「ええ。というか、今はちょうどオフでしてね」
原発の仕事は3カ月から5カ月
がワンクールで、一仕事一終わると、
1カ月ほど休暇になるらしい。
「ま、とりあえず《場所をうつしま
しようか」彼の案内で寂れた街並みを歩く。
原発はここから5キロほど離れた通り沿いにあるそうだ。
発電所のあたりは電柱が全部可動式になってるんですよ。じゃな
いと原発の部品工場の馬鹿でかいトレーラーが通れない。それでも
通れなけりやブッダ切って平気で信電させちゃいますしね」
「近所の人は怒らないんですか」
「ええ、こういう町ってのはモノ
事がぜんぶ原発を中心に回ってますからね。文句を言う人間なんか
1人もいませんよ」
間もなく我々は近くのカラオケ
ボックスに到着。ウーロン茶が部
屋に運ばれたところで、インタビューが始まった。

3カ月でサラリーマンの年収は稼げる
金子氏が原発で働きだしたのは
今から5年前のとき。勤め先の寮のルームメイトにダマされたのがきっかけだった。
「ソイッ、私の保険証を使ってサ
ラ金の金をつまみやがったんです
よ。世社から500万借りて次の
日にドロン。ひどい話でしよ」
むろんそんな金を払う言われは
ないが、「犯人が捕まるまでオマエが払え」と督促は会社にまで
及び、結局、「迷惑だから」とクビを切られてしまう。
「そのあとは金もなくて、廃校の
小学校で寝泊まりしてました。メ
シはパン屋からパンの耳をもらっ
てきたり、畑の大根を引っこ抜い
たり。私、親が両方とも死んでて
帰るところがないんですよ」
1カ月後、彼に社会復帰のチャ
ンスが訪れる。職安に通ううち、
原子力発電所の軽作業員求む〉の求人票を見つけたのだ。
「条件は8時間労働で20万だった
かな。けど、本当はもっと稼げる
はずだってピンときて。原発の仕
事が良い金になるって何かの雑誌
で読んで知ってたんですね」

面接の担当者はヤクザ風の男だった。
「いきなり、『3カ月でサラリーマンの年収ぐらい稼げって(笑)。聞いたら、職安に良すぎるのは困る」って言われて、求人票にはわざと安く書いたみたい

3カ月でサラリーマンの年収と
言われれば、確かに心は動く。が、
あまりにハイリスクな仕事。放射
能を浴びることへの抵抗はなかっ
たのだろうか。
「いや、そりゃなくはなかったで
すけど…。背に腹はかえられませんよ」
こうして3日後、彼は、新潟県柏崎市へ向かうことになった。
「まず宿舎に入れられましてね。
そこで原発作業員になるための手
続きを済ませなきゃいけないんで」

50過ぎのオッサンからハタチそこそこのヤンキーまで、10
人ほどの〃お仲間“がいた。
「入所にはIDカードと暗証番号
が必要なんだけど、それをもらう
には病院の健康診断と〃ホールボ
ディ″と〃放管教育″を受けなき
ゃいけない」
健康診断は何となく想像できる
が、残り二つはどんな内容なのか。
「ホールボディは、卵停内の線量等
量(被爆している)を調べる検査ですね。入退所時の線量等量の
計測が法律で義務つけられてるん
ですよ。つまり、それまでどのぐ
らい放射能を浴びてきたか事前に
計っておこうってわけ。ちなみに、
原発で働く人間は、50mSVま
でしか被爆しちゃいけないことに
なってます(一般人の被爆量)」
一方、〃放管無雪原では、雷力会
社の社員から、徹底的に放射能
関する知識を叩き込まれる。
「要するに安全教育なんですけど
…。『中性子』だの『核分裂」だ
のってやけに難しくて。将茎干中は
居眠りばっかりでした(笑)。た
だ、自分の身に関わることだけは
頭の中に残るんですよ」
彼によれば、発電所の中は、放射能汚染の度合いによって、「A」
「B」「C」「D」の4段階に分か
れているらしい。「A」がほとん
ど汚染されていない最も安全なゾ
ーンだとすれば、逆に最も放射能
を浴びる恐れのあるのが「D」ゾ
ーン。
彼が入るのは他ならぬ、この
「D」ゾーンだった。翌日、朝7時に叩き起こされた
彼は、ワンポックスカーに乗り初
仕事に出かける。
発電所に入る前にも、ウンザリ
するぐらいチエックを受けるんで
すよ。金属探知器からIDカード
のチエック、人相の確認まで、全
部で4,5回はあるかな」
作響蕃貝の装備も厳重だった。特
にDゾーンの場合、ゴム手袋と作
業着を二重に着込み、ゴム長を履
いた上、ヘルメットと防護マスク
を着用する。
「けどこの作業着、布製なんです
よ。しかも、洗濯して何度でも使
い回す。電力会社の人間は安全だ
って言ってたけど、ちょっとヤバ
イんじゃないかなって」
着替えが終われば、発電所内を奥へ奥へと進む。同じ会社の和人
が〃1チーム″だ。
「途中でも色々な作業場で人が働
いてましてね。電力会社の人間は
全部で3千人ぐらいいるって言っ
てたかな」
原子炉に突き当たった後は、エ
レベータと階段でDゾーンへ。そ
こは壁に無数のコードが張り巡ら
されたSF世界の工場のような部
屋だった。
「いやあ、初めて入ったときはさ
すがに体が震えましたね。なんせ
目に見えない放射能がいっぱい舞
ってるんですから」
作業員の仕事は壁の今壬ンの点検
である。一回ハズし、もし壊れて
いたら新しいネジに付け替える。
誰にでもできる単純作業だ。
「やり始めて5分ぐらいたったこ
ろかな、首から下げたアラームメ
ーター(1日の基準の放射能を浴
びたこと知らせる機械)がピッて
鳴ったんで、すぐに作業を中断し
て、別の人間と交代しました」
作業が終わった後は、〃退室モニ
ター″と呼ばれるゲートで、体に
放射性物質が付着してないかどう
か検査を受ける。
「実は私、一回コイッに引っかか
っちゃったことがあって。手首に付いてるって言うんだけど、石鹸
で洗ってもどうしても落ちないん
ですよ。こういう場合、皮層麻酔
で問題の個所を焼かなきゃいけな
いんです」
ずいぶん荒っぽいやり方だが、
電力会社からすれば、放射性物質
を「外」に持ち出すわけにはいか
ないのだろう。
ちなみに、Dゾーンで1日に浴
びる放射能は0.35m訓ほど。
週5日、3カ月間働けばmmwを
ラクに越す計算だ。年間被爆量が
釦、訓に制限されていることを考
えれば大変な数字である。
「ただ、毎日毎日Dゾーンに入る
わけじゃなくて、B、C、Dって
口Iテーションが組まれてる。B、
Cあたりの1日の被爆量は0.0
1ぐらいだから、まあ、ひとまず
安心なんですよ」
臨界事故の夜は一晩中
放射能を浴びていた
仕事以外の時間は、宿舎でボー
ッと過ごした。他の者は風俗やパ
チンコで散財していたが、借金を
抱えた身じゃそうもいかない。
「もっとも連中には小銭をずいぶ
んタカられましたけどね。やれ酒
買ってこいだのタバコ買ってこいだの。この業界、完全なタテ社会
で新入りはパシリ扱いなんです
よ」
そして迎えた給料日、彼は釦万
の金を手にする。が、喜ぶ間もな
く親方からこう言われたという。
弓もっとDゾーンに入れば給料
あげてやるぞ」って。悩みました
けど、結局、金の魅力には勝てま
せんでした」
翌月は半分ほどDゾーンに入っ
て100万、その次の月は毎日D
ゾーンで150万を稼いだ。
「金が貯まるのは嬉しいんだけど、
Dゾーンで働き過ぎたおかげで被
爆量が即、w近くになっちゃって。
これはヤバイなあと」
前記したように、原発で働く人
間は釦、訓まで被爆が許されてい
る。ところが、電力会社は、独自
の基準で年申同被爆量を制限してお
り、実際に被爆可能なのは釦、訓
程度。つまり、彼はその時点で向
こう1年作叫業ができなくなったの
だ。
「ま、仕方ねIかなといったんは
あきらめたんです。けど定期検査
の後で〃放管手帳〃を受け取って
驚いた。なぜか被爆量がゼロって
書かれてたんですよ」
この放管手帳には、どこの原発でどれだけ働いたかが細かく記さ
れている。いわば、原発を渡り歩
くために必要なパスポートのよう
なものだ。
「なんでゼロなのかはよくわから
ないけど…。ま、私はそんなのど
うでもいいんですよ。原発で働け
ればいいんですから」
その後、彼は全国の原発を渡り
歩く。1年間で平均2〜3カ所。
最近は柏崎←福島←東海村がパタ
ーンになっているらしい。
「面白いのは、行く先々で必ず見
覚えのあるヤシと出くわすこと。
「よう、あんた東海村にもいたよ
な」って。やっぱりみんなこの仕
事のオイシサに辞められないんで
しょうね」
ただ、体は確実に蝕まれていた。
入所の途端、顔色が青くなり、体重が落ち、オフになるやいなや元に戻るのだという。
「血の止まりも悪くなりましたね。
歯の治療とか受けると1日中血が
流れっぱなし。実際、今じゃ白血
球が霞パーセントも増えてて」
「死への恐怖とか感じたことはな
いんですか」
「う-ん。それがなぜかあんまり
感じないんですよねえ。まだ大丈
夫だ、まだ死なないはずだって。きっと麻律しちゃってるんでしょ
うね」
実は、彼は冒頭で述べた東海村
の臨界事故現場にも居合わせてい
た。仕事はオフだったが、たまた
ま訪れた友人の家が現場のすぐ近
くだったのだ。
「あの晩は飲み過ぎて車の中で寝
ちゃって。気つかずに一晩中、放
射能を浴びちゃったんですよ。同
僚の話じゃ、3キロ離れた発電所
の書報装置が一斉に鳴ったらしい
ですからね。あのときばかりは
『死ぬんじゃないか』って真剣に
思いました」
ホールボディ検査の結果は、と
りあ蒸す皇盃帝なし〉だったらしい。インタビューも半ばを過ぎたこ
ろ、私は、「原発を見せてもらえ
ませんか」と申し出た。ここまで
来て〃本物″を見ないで帰るのも
惜しい。
「ええ、かまいませんよ。一般の
見学コースは終わっちゃってるけ
ど、煙突ぐらいなら眺められると
ころがありますから」
我々を乗せたタクシーは、原発近くの松林に到着。この並木道を抜けたところに発電所があるらしい。
「行きましょう」
並木道にできた大きな水たまり
を避けながら歩く。
「あ、そうだ、面白いものを見せ
ましょうか」
「面白いもの?」
「来てください」
彼の後に続き、松林の奥へ分け
入っていくと、〈立ち入り禁止〉
のフェンスが現れた。見れば、直
径印センチほどの大きな穴が補修
されている。
「何です、コレ?」
「山菜を取りにきた連中が、穴を
あけて発電所の敷地に入っちゃう
んですよ」
マス、でも監視カメラがついてる
じゃないですか」
「ええ、でも誰もモニターなんか
見ちゃいません。ウソだと思うな
らちょっとカメラに近づいてみて
ください」
言われたとおり近づいてみると、
確かにレンズはピクリともしない。
「でもまあ、これだけなら大した
ことじゃない。実はここから、誰
にも知られず発電所の中に入れる
んですよ」金子氏が、その方法を得々と語
り始めた。
まず、この穴から敷地内を真っ
直ぐ歩けば、最初のゲートのチェ
ックを受けずに発電所の前に出ら
れる。その後、作業員になりすま
し(事務所でテキトーな作業服に
着替える)、発電所の入り口で入
所に必要なIDカードを入手(こ
発電所の場合、全員のIDカー
ドを入り口の下駄箱のようなとこ
ろに集めておくらしい)。暗証番
号はカードに記された数字の下4
ケタか上4ケタを打ち込めば必ず
ヒットする(番号の打ち間違いは
3回まで認められている)ので、
あとは自由に出入り可能。
「どうですか」
「。。。・・・」
「実際、私自身、うっかり他人の
IDカードで中に入っちゃったこ
とがあるんだけど、誰も気つきま
せんでしたから」