いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

刑務官の仕事内容は?刑務所がきついと言われる理由

この雑誌を読み始めて約半年、
考えてみれば、私の仕事場もある
種の裏モノなのかもしれない。
高い塀で囲われたその職場では、
頭を丸坊主に刈り上げた何百何千
もの男たちが昼間は製品加工やら
自動車整備などの作業に労を費や
し、夜は鉄格子で仕切られた各々
の部屋へ帰る…。
私は、そんな彼らを毎日監視し、
日々保全に務めている。刑務官。
これが私の仕事だ。
念のために説明しておくと、刑
務所とは、すでに裁判で懲役が確
定している者が入るところである。

そこで働いているのは、公務員の試験を受けたわれ
われ職員のみとなる。
対して、警察が一時的に容疑者
を保護しておくところが留置場で
あり、一定の留置期間を過ぎた未
決囚や死刑囚が入るのが拘置所
(当然、無罪になったり、執行猶
予で出ていく者もいる)。
これまで、受刑者側による話は
数え切れないほど世に出回ってい
るが、彼らを監視する側の話はほ
とんど出ていないはずだ。私がこ
の「裏モノ」に投稿しようと思っ
たのも、その辺の事情からに他な
らない。

話は、今から4年前、高校3年
の夏休みに遡る。進学だろうが就
職だろうが誰もがムリャリにでも
将来を考え始めるこの時期、毎日
ダラダラと遊びほうけていた私は、
ハッキリ言って何も考えていなか
った。
が、さすがに2学期が始まると、
周囲の連中は進路の話ばかり。学
校側の「早く決めろ」攻撃も日増
しに強まり、私もなんらかの決断
を迫られていた。
そこで親との相談の結果、進路
先は公務員に決定。心底嫌いな勉
強を大学に入ってまでやる気はな
かったLかといって仕事を生き
がいにするような人間じゃないこ
とは百も承知していた。
ま、公務員と一口に言ってもい
ろいろあるわけで、まず頭に思い
浮かぶのは役所や警察、消防など。
が、私が選んだのは国家3級公務
員である刑務所職員だった。なぜ
かと聞かれても、正直言ってわか
らない。なにしろその年のⅢ月に
行われた筆記試験の内容も、その
後の面接で答えた志望動機も、な
にひとつ覚えていないのだ。
そして翌年の3月、高校を卒挙〈
した私は、刑務官デビューを果た
す。と同時に、独身寮へ入ること
になった。
寮は木造3階建ての古い造りで、
プロ、トイレ、げた箱が共同のい
かにもな建て物。刑務官の寮など
と聞くと、なにかとんでもない上
下関係や規律がありそうだが、先
輩たちによるシゴキやイジメはほ
とんどないし、特別な規則もない
から、何時に帰って来ようが、女
を連れ込もうがまったく問題ない。
では、話を仕事の方へと移そう。
刑務所の職員は、実際の仕事に入
る前に、まず研修を受けることに
なっている。最初の座学でたたき
込まれるのは、刑法や監獄法など。
要するに刑の種類や受刑者の義務、
権利などといったことだ。
受刑者の権利っていったい何の
権利なんだと思うかもしれないが、
これは後々述べていくとしよう。
そして、研修の後はいよいよ先
輩に付きながら、受刑者とのご対
面。初めて懲役(受刑者)の姿を
見たのは、朝の恒例、カンカン踊
りというやつだった。
カンカン踊りとはなんぞや。ま
さか受刑者がダンスするわけじゃ
ない。よくテレビなどでも紹介さ
れるとおり、懲役は昼間、刑務所
内の工場で労働させられるのだが、
舎房(監獄)から工場へ移動する
際に、必ず服を脱ぎ、刑務官から
検身、つまりボディチェックを受
ける決まりになっている。このと
き手を伸ばしたり、足を開いたり
している様をカンカン踊りと呼ん
でいるのだ。
初めてこの踊りを見た感想は、
まさに入れ墨の踊り・腕や背
中、尻にかけて、これでもかとい
うくらい彫り物を入れた連中がウ
ョウョいるのだ。指が1本ないヤ
シも結構いるし、やけにリッパな
モノをと思ったら真珠まで入れて
いたり…。
要するに、ヤクザの占める割合
がやたら多いのである。ま、あら
かじめ予想はしていたが、間近で
見ると、まともに目は合わせられ
ない。そりゃそうだ。当時、私は高校
を出たての19才。一応、ラグビー
部でバックスを務めていたものの、
やせた体付きが災いしてか、3年
間ずっと補欠だった。そんなやせ
っぽっちの少年の前に、ゴッイお
っちゃんがゾロゾロと列を作って
ニラミを利かせてくるんだから、
ビビらないわけがない。


しかし、ヤクザたち以上にピッ
クリしたことがある。懲役に対す
る先輩たちの態度である。「早く
脱げ」なんてのはまだやさしい方
で、私語を慎まないようなら「バ
カ野郎」ぐらいは平気で飛ばす。
さっきまで温和そうな先輩がヤク
ザ顔負けの荒っぽい男に豹変して
いるのを見ると、ア然とせざるを
えない。

 

こで、刑務所でのいろんな仕事をスケジュールとともこ

起床
朝の6時45分、いっせいにベルを鳴らし起床させる。だいたい55分ごろから点呼を始める。

朝7時過ぎると、懲役のメシを配膳し始める。

出役

カンカン踊りの後へ各々の場に行かせて仕事

がだいたい朝の8時。懲役を他の
場所へ連れて行く任務を「連行」
と呼んでいるが、作業場へ連れて
いくのも重要な連行任務のひとつ
である。
工場は部門別に分かれていて
(懲役は仕事を選べない)、家具か
ら自動車整備、溶接、日用品まで
実にさまざま。もちろん、ちゃん
と働いているかどうか見張る係も
いる。私が最初に担当させられた
のは紙袋の工場で、さる有名デパ
ートの紙袋を作っていた。

昼食
正午には環房(舎房に戻る
こと)させて、昼メシ。懲役は皆、
ものすごい早さで5分と経たない
うちに平らげる。これは、メシの
時間が短いのではなく、残りの休
憩時間を少しでも多く取りたいが
ため。
その後、2時半にもう一度だけ
短い休憩が入り、4時半に終了の
準備をして還房。5時には、閉房
点検。朝と同じように検身し、全
員が揃っているかどうかチェックをする。


⑧入浴
およそ2日に1回のペースで、
3時ぐらいから順番に入らせる。
たまに見張り役を任されるときも
あるが、カンカン踊りと同時に数
多くの立派な昇り竜や錦鯉などが
見られるひととき。

運動時間
夕食前の懲役には、キャッチボ
ールしたり、走ったりできる時間
が用意されている。もちろん、見
張り付きだ。
夕食
夕方5時10分ごろには配られる
という、病院なみの早さ。慣れな
い新入りの懲役だと、夜中に腹が
減って眠れなくなる。

就寝
夕食後の6時から9時までは懲
役にとっていちばん心がやすらぐ
自由時間。本を読んでもいいし、
寝てもいい。

消灯
夜9時、消灯。同時に、夜勤が
始まるのもこのころだ。夜通し舎
房を監視して回り、何度かの休憩
を挟んで明け方の午前8時半まで。
懲役が寝ている間も働かなくちゃ
いけないので、いくら手当が付く
といっても、この仕事も決してラ
クじゃない。

刑務官になりたてのころは、ゴ
ッイ懲役たちにビビリながらも、
ある意味では彼ら以上に時間に厳
しい環境に辞易していた私だった。
が、月日が経ち、夜勤を任される
ようになってからは、体が慣れた
のか、前の晩に彼奄女の家でヤリ過
ぎても、キャバクラで飲み過ぎて
も時間どおりに出勤できるように
なっていた。


それどころか、こうして生活に
余裕ができ、大人の遊びってヤシ
を些早えてくると、裟婆では遊びに
遊びまくっていた(であろう)懲
役のオッサンたちの悲哀が理解で
きたりするから、まったくもって
皮肉なもんだ。


確かに、先に挙げた1日のスケ
ジュールをざっと見ても、受刑者
に楽しみなんてほとんどないと思
うかもしれない。ところが、やは
り人間ってもんはどんな状況下に
おかれてもそれなりの楽しみを探
し出す生き物なのである。
刑務所の中でのいちばんの楽し
み、それは何といってもメシだ。

こればっかりは老若を問わずほぼ
全員に共通して言えよう。皆、か
きこむように食べているが、その
表情は実に生き生きしている。
よく世間では「クサいメシ」な
どと言われるように、刑務所の食
事はマズイと思っている人がほと
んどだろうが、そんなことはない。
特に、私が担当している箇所はオ
カズの種類も豊富で、懲役が食う
メシの方が職員専用の食堂よりず
っとウマそうだったりする。


また、祝日には祝日菜といって、
ジュースやお菓子なども配られる。
コワモテのニイちゃんがおいしそ
うにポッキーなどを頬張っている
図もまたどこかほほえましいもの
である。
また、身寄りのある者だけに許
された楽しみが面会である。この
ときばかりは皆、人が変わったよ
うにうれしそうな顔を見せる。
さすがに食べモノの差し入れは
禁止だが、本や雑誌(一応、検閲
をかける)、また石鹸や歯ブラシ
などの日用品はOK。何より近し
い人間と言葉を交わせるのがたま
らないようだ。
面会室では、アクリル版を挟んで相手と肋〜加分ほど話ができる
ことになっており、面会できるの
はあくまで親族限定。話の内容も、
われわれが監視しているので、決
してへタなことは話せないように
なっている。…ハズなのだが、ど
うもそうじゃないらしい。
あれは、確か職に就いて2カ月
ほど経ったころだったと思う。面
会の監視もいくつかこなしていた
私は、ある日、一目見てヤクザと
わかる右の薬指のない中年男を面
会室へと連行した。面会相手は、
奥さんの弟だとい詰乳
普通、面会の話の内容といえば、
ほとんどは子供が何才になったと
か、どこどこの誰々が結婚しただ
の亡くなっただの、たわいもない
話ばかりだ。
そのオヤジと義弟の会話は確か
こんな感じだったと記憶している。
「そういえば、オメエんとこのタ
コ焼き屋、儲かってんの?」
「まあね、ボチポチ」
「最近はあれか、やっぱりタコが
高いだろう?」
「まあグラム350ってとこかな。
でも、先月は客が来なくて、赤字
だったよ。たまんねえなあ」「んじゃあ、オジサンとこの八百
屋は?」
「ああ、あそこはつぶれかかって
るね。キャベツが相当不作みたい
だから」
「キャベツ?ホントかよ」
とまあ、少し聞いたくらいでは
何の変哲もない世間話である。こ
の後、「魚屋は?肉屋は?」とい
うオヤジの問いかけは延々続くの
だが、サンマがどうした烏肉がど
うしたとの答に、懲役のオッサン
のリアクションが大げさなこと。
実に不可思議な会話であった。さて、いくらニクまれ役だろう
が、刑務官とて人間である。長い
期間働くほど、どの懲役も平等という人もいない。
とりわけ、どの刑務官もが、何
回生まれ変わっても、コイッとは
絶対わかり合えることはないと言
えるほどの厄介者がいるものだ
(もちろん、懲役側にしてもそれ
はまったく同じなのだろうが)・
私の場谷は、それが柿村という男
だった。
この男、他の組員の娼婦に手を
出し、復讐に来た男の方をピスト
ルで返り討ちしてしまったらしく、
傷害罪で懲役2年を食らっている
のだが(服役者の罪名や懲役は閲
覧することができる)、まあそん
なことはどうだっていい。

知っている人もい
るかもしれないが、刑務所では頼
めば、たいていの新聞や本を買っ
ことができる。最近では世間で言
われているよりもチェックは緩く
なっており、マンガや青年誌でも、
ソフトなヌードぐらいなら問題な
く買える。「裏モノJAPAN」
だっておそらくOKである。先輩
の話では愛読者も結構多いらしい。
だが、柿島が頼むのは「月刊M
ANlZOKU」と「実話ニッポ
ン」だけ。「両方とも検閲でダメ
だから、他のを頼め」と命令して
も、今度は「弁護士に言って、訴
えてやるからな」と、モノすごい
形相でニラんでくる。
「MANlZOKU」の場合はモ
ロにフーゾク雑誌だからNGo一
方、「実話ニッポン」がダメな理
由は単純だ。暴力団に関すゑ韮争
は、舎房内でのいざこざの元とな
りやすいため、いちばんご法度と
されているからだ。そのため、新
聞でも雑誌でも、その記事だけは
しっかりスミベタが塗られること
になる。
テレビ(夕食後に見ることが許
される)だと、野球中継や相撲はOKだが、ニュースが流せないの
も同じような事情による。ニュー
スなんていつどんな殺人事件を報
道するかわからないわけで、ある
懲役の舎弟が他の懲役の親分を撃
ったなんてのも本気で起こり得る
話なのだ。
ま、柿村のようなトポけた懲役
は、つい数年前ならヒドイ目に遭
っていたはずである。看守の側か
らワザと挑発して、逆上した相手
が腹イセに椎を蹴っ飛ばした時点
で非常ベル。あとは仲間でボコポ
コにして独房にプチこむという、
実に横暴な処置がつい最近まで取
られていたらしい。
最近では人権問題だかなんだか
知らないが、いろいろうるさくな
ったせいでできなくなってしまっ
たとのこと。もっとも、出所後が
コワイから私はそんなことなんて
しないんだけど。

柿村ほどじゃないが、タチの悪
い懲役は常に存在する。
例えば、服役中はいくらマジメ
でも、満期に近づいて出所前になると、突然態度が呼種柚になるヤシ。
「すぐ出られるんだから、好き勝手にやればいい」とい
う腹だ。たいていは工場の仕事が
なげやりになったりするのだが、
笑えるのは、こういうヤツに限って出所してもスグ
に出戻ってしまうことだ。
例の柿村ですら「タバコくれよ
-、こないだ××さんは1本くれ
たんだぜ」とか「オレが(刑務所
を)出たら、楽しみにしとけよ-」
などと散々フカしていたが、スグ
に再会したときはさすがにバツ
悪い表情を浮かべていた。
ちなみに、看守が気分によって
タバコや菓子をあげるなんてこと
はまずあり得ない。そもそも減点
主義のこの世界で、そんなバカな
マネをやるヤツは皆無らしい。

元懲役と出所後も付き合ってしまい、ク
ビになったある先輩だ。金品や女
を世話してもらう約束で、いろい
ろと便宜を計ったらしい。が、急
に態度も金回りも格好も変わって、
上司に感づかれてしまったという
から、まったくマヌケなヤシだ。
もちろん、私は篭絡などとは生
涯無縁である。…と言いたいとこ
ろだが、ここだけの話、正直に告
白しよう。実は、自分も懲役と取
り引きをしたことが一度だけあっ
た。ただ、ヤシらの見返り欲しさ
にタバコをあげたりするような幼
稚なマネじゃない。
さきほど「今はボコボコにでき
なくなった」と書いたが、実は2
年前、あるイャミな上司が部下に
声をかけ、一人の懲役をボコボコ
にした挙げ句、保誰房に3日間放
り込んだことがあった。
保護房は、懲役にとってはもっ
とも避けたい場所である。もとも
と暴れて手に追えないようなヤシ
を入れておくところだけあって、
扱いは独居房に輪をかけてヒドイ
くなる。皮手錠をかけられわ、ち
ょうど尻の穴の位置に穴が開いた
パンツをはかされるわ、メシは犬
のようにして食わなければならな
いわで、もう完全に動物以下。
なるほど、まだ懲役の方に非が
あれば、納得できたのかもしれな
い。しかし、この一件は誰が見て
も不当だった。懲役はバカ上司の
単なる気まぐれで、犠牲になって
しまったのだ。
もちろん、これには懲役本人も
ガマンならなかったようで、彼は
「刑務官の暴行を訴えたい。協力
してくれないか」と私に嘆願して
きた。
正直、迷った。バレれぱ一大事
である。やはりクビにはなりたく
ない。がしかし、男の無念をこの
まま見過ごしておいていいのか…。
結局、私は彼の奥さんに、本人
の安否を知らせてあげることくら
いしかできなかった。

それが自分にできる精いっぱいの施し、言い替えるなら上司への裏切りだった。ただ、盗聴でもされていたらシャレにならないので、奥さんとの電話での会話もすべて暗号だ。


スカイライン、エンジンの調子どう?」
「まあまあですね」
「ちゃんと走ってるのかしら」
「大丈夫ですよ、毎日ガソリン入れてるし」
そう、スカイラインとは懲役本
人のことで、ガソリンとはメシの
ことである。このときばかりは、
暗号を使って相手と〈至誠するヤク
ザたちの痛快さと緊張感がなんと
なくわかったような気がした。
しかし、いくら感謝されても、
お礼だけは絶対に受け取らなかっ
た。もし受け取ればぱ、あのイヤ
ミな上司と同じになってしまうで
はないか。

「刑務所の職員をやっている」と
人に堂々と言えるようになったの
は、ごく最近のことだ。なぜだろ
う。わからない。
普段は懲役たちをぞんざいに扱
いつつも、ときにはヘンな正義感
に燃えてしまう目分にずっと矛盾
を感じていたのかもしれない。
しかし、最近はそんな迷いも不
思議となくなった。まだ就職した
てのころ、出所してはスグに戻っ
てくるリピーターの懲役が子分に
向かって「刑務所なんてスグに慣
れる」と励ましていたのを耳にし
たことがあるが、それはむしろ僕
ら刑務官に言えることである。
すべてに慣れ、あらゆる私的な
感情を抑えながら日々、励むこと。
ただ、それだけだ。冗談やヨタ話
はキャバクラのネーチャン用に取
っておけばいいのだから。