いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

辛いで有名な山崎製パンでアルバイトしてみた

キツイ仕事の代名詞として有名なのが、
山崎製パンの工場アルバイトだ。
 
ネット上には悪評の数々がズラっと並んでいる。
「単純作業の繰り返し」
「時間が一向に進まない」
「退屈すぎて死ぬ」
 
編集部のおっさん、サトウによれば、この種の悪評は30
年前からすでにあったという。 
果たして本当のところはどうなのだろうか。
 
実際に山崎製パンでアルバイト経験のあ
る女性に、その業務内容を詳しく語ってい
ただくことにした。

ヤマパンバイトが辛いのは有名だった
私が山崎製パン(以下・ヤマパン)でア
ルバイトをしていたのは今から7年前、
22才から25才までの3年間だ。
 

4年制大学を卒業して大学院に進学し、
心機一転、新しいバイトを探していたとこ
ろ、ネットでヤマパンのバイト募集を発見
したのが、最初のきっかけである。当時から、ヤマパンバイトが辛いのは有
名で、2chなどの掲示板では、たびたび
ネタにされていた。
 そこに好奇心をくすぐられた。せっかく
なら、何か話のネタにでもなった方がいい
かな、と応募を決めたのだ。私自身一人っ
子で、孤独に黙々と作業するのが得意だっ
たというのもある。
 ホームページに記された電話番号に掛け
て、働きたい旨を伝えたところ、説明会に
来てほしい、との返答が。ヤマパンのよう
な大手企業は常時バイトを募集しているの
で、通年で週に何度か説明会を開催しているようだ。
 

説明会当日、集合場所はヤマパンの工場
内にある会議室だ。
学校の教室くらいの大きさの会議室に、
私を含め10名ほどの男女が集まっていた。
 年齢層は40代以上の方が多く、オジサン、
オバサンが目立つ印象。私が一番若いぐらいだ。
 そこに男性従業員が入って来た。
「はじめまして。ではこれから説明会を開
始しますね~」
 約20分ほどで業務内容やアルバイトの待遇が説明された。
 時給は950円。中々の高水準である。
 昼勤が9時から18時で、夜勤が18時から翌5時とのこと。
 待遇自体は一般的である。ちょっと拍子抜けだ。
「みなさん、本日はお越しいただきまして
ありがとうございました。では、これから
お配りする紙に希望するシフトを書いて、
履歴書と一緒に提出してください」
 カレンダーのような形式のシフト表が配
られた。特に面接などはなく、働きたけり
ゃ誰でも採用ってことみたいだ。

あんぱんにゴマをのせる仕事
 翌日、初出勤の日。
 まずは更衣室で作業着に着替える。恥ず
かしながら私はかなり太り気味なので、自
分に合ったサイズのユニフォームがあるの
か心配だったのだが、更衣室の前には、S
から5Lくらいまで、洋服屋顔負けのもの
すごいサイズ展開がなされていた。これな
ら、どんだけデブが働きに来ても大丈夫そ
うだ。ロッカーで作業着に身を包み、帽子とマ
スクをつけて準備完了。目しか出てない完全防備である。
 その後、テニスコート3面ぶんくらいのクッソ広い食堂にバイト全員が集合。
総勢100名くらいだろうか。全員が真っ白な作業着なのでかなりおかしな光景だ。声を聞かないと、相手が男か女かもわかんないし。
 1人の従業員が前に立って説明を始めた。
「はい。おはようございます。それでは振り分けます。
和菓子課、鈴木さん、佐藤さん、平井さん…」

バイトたちは当日になって初めて自分の
担当する仕事がわかるみたいだ。
「…はい、次は菓子パン課、池田さん、宮田さん…」
おっ!呼ばれたぞ。急いで行かなくちゃ。

菓子パン課ってなにをやらされるんだろ?
 社員さんに率いられて、ベルトコンベヤの前に案内された。
「それじゃ宮田さんにはここで、やっても
らうから、ちょっと見ててね」
 彼の手には銀色のボウルが。中には小さ
なツブツブが入ってる。白ゴマのようだ。
 ゴーっと音を経てて、目の前のベルトコ
ンベアが動き始めた。横に2つ、縦に3つ、
計6個のまとまりで並んだあんぱんが次か
ら次へとやってくる。
 そのあんぱんの上に白ゴマを20粒ほどずつのせていく社員さん。
「これぐらいの量って覚えておいてね。だいたい一つまみで」
「はい。わかりました…」
 つまりこの仕事は、
『流れてくるあんぱんの上にゴマを数粒ずつのせる』という作業だ。聞きしに勝る単純さである。こんなの、機械にやらせりゃいいのに…。
「ゴマがなくなったら、あそこから取ってきて続けてね」
 指差す先には、大量のゴマが入ったトレイが並んでいた。
「じゃあ、後はよろしく」
 よし、やりますか。ボウルを片手に、流れてくるあんぱんの上にゴマをせっせと落としていく。ほいほいほい、と。
 だいたい5秒に1回くらいのスピードで
6つのあんぱんが流れて来るので、のんび
りはしていられない。絶妙なスピードだ。
 焼きたてのあんぱんからは、香ばしいニ
オイが漂ってきて、とても美味しそう。あ
ーいい香りだなー。
 なんて言ってる場合じゃない。ほいほい
ほい、ほいほいほい、と。うん、もう飽き
てきたよ。まだ5分も経ってないけど。
 仕方ない、どうやってゴマを振るのが一
番効率的で疲れないか、考えてみるとしよ
う。考えるってほどでもないけど。
 試行錯誤した結果、左右ジグザグにゴマを振るのが腕に疲労がたまらないことを発
見した。これで楽になるぞー。
 …なんてことはなかった。腕の疲労どう
こうじゃなく、考えることがないのがツライ。
 時計に目をやる。作業開始から20分しか経過してない。うわ…。
食べ放題のパンを誰も食べない
 次第に、何も考えなくても自動的に身体
が動くようになった。ゴマを取る量も指先
が覚えているので、いちいち確認せずとも
勝手に動く。肉体と精神が分離していく、
なんとも不思議な感覚だ。
 脳内は全く別のことを考えはじめる。
(今日家帰ったらなに食べようかな~。あ、でもレポートやらなくちゃ~)
(レポートの参考文献どうしよっかな。書き出しを今のうちに考えとくか)
 ふと工場内の別の人に目を向けても、誰も会話をしていない。機械がリズミカルに動く音だけが鳴り響く。
 時刻が12時近くなったところで、先ほどの社員さんがやってきた。

「宮田さん、お昼休憩入っていいよ~」
よし、やっと休憩だ! さすがに3時間以上同じ作業をしているので、肩が凝ってるぞ。伸びをしながら食堂に戻る。はー、疲れた。
 食堂には同じく作業着姿の方々で溢れて
いた。少数の仲の良さげなオバチャングル
ープはかたまって弁当を食べているが、基本は1人。
 当然、私も友達なんぞいないので、1人
で椅子に座り、一杯250円の醤油ラーメ
ンをすする。うん。安いけどそれなりにおいしいぞ。
 隅っこでは、印字をミスったり、形が悪
くなったパンが無料配布で食べ放題になっ
ていた。だが誰も食べてない。毎日、目に
してるものを食べる気にならないのかな。
1時間で休憩時間は終わり、終業の18時までまたゴマを振りまくって初日は終わった。

これ、人間がやる必要あんのかな?
次の出勤日の配属は「食パン課」だった。社員やパートのオバチャンと違って、アル
バイトは出勤のたびに別の仕事に従事するらしい。
 社員さんに渡された軍手を2枚重ねにつ
けて、ベルトコンベアの前に立つ。はいは
い、本日はどんな仕事ですか?
「食パンが流れてくるから、それを隣のレ
ーンに移動させてくれるかな」
今日の仕事は、
『ベルトコンベアを流れる食パンを、隣のコンベアに移動させる』
 である。これ、人間がやる必要あんのかな?
 ではやりましょう。
 続々と流れてくる、焼きあがったばかり
の食パンを片手でつかみ、自分の後ろ側に
あるレーンに置く。足を動かす必要がない
ので、身体をひねるだけだ。
 えっさほっさ、と移動させまくる。前回
よりも体力を使うなあ。
 社員から注意が飛んできた。
「ちょっと! 宮田さん! 強く握らない
で優しく移動させてくれるかな」
 おお、思わず力が入ってしまっていたみ
たい。食パンがヘコんだら大変だもんな。まだ焼きあがったばかりで耳の部分がカ
リカリ状態なので、力を入れすぎたら簡単
に割れてしまいそう。気を付けなきゃ。
 にしても焼き上がったばかりなだけあっ
てパンが熱い。軍手を二枚重ねにしてても、
モワっと熱気が漂ってくる。こりゃ体力を奪われるな。
 左右に身体をひねって食パンを移動させ
続けること1時間。汗がじんわりにじんで
きた。あー、腰が痛くなってきたよ。つー
か、こんな左右に移動させるだけの仕事が
この世にあっていいのか…。
 作業着の下が汗でビチャビチャになった
ところで、ようやく休憩時間になった。

モグラ叩きに似てる気がする
 あっという間の昼休憩を終えて工場に戻
ると、社員さんから声をかけられた。
「宮田さん、ここはもういいから、こっち
来てくれる?」
 やった~。灼熱地獄から解放~。次は疲
れないのがいいな。
「じゃあ、ここを流れてくるパンを押して、
空気漏れを確認してくれる? こんな風に」
 そう言って、ギュッと指でパッケージを押す社員さん。
「……押すだけですか?」
「そそ、袋を押して確認ね」
 つまり午後の仕事は、
『パンの袋を押して漏れを確認』
 である。
 確認、という部分に、人間ならではの能
力への期待があるように思える。
 ビニール袋に入った菓子パンが大量に流
れてきた。こりゃ急がなくっちゃ。
 トントントン、と袋を押す。いきなりプ
スッと空気が抜けたパッケージを発見した。
おっ、こいつはダメだな。別の場所によけておこう。
 トントントン。さっきの作業より体力的
には楽だけど、これまたものすごい単純作
業だ。なんとなくゲーセンにあるモグラ
きに似てる気がする。無限モグラ叩きだ。
 トントントン、プスッ。おっと、またもや空気漏れを発見。
 トントントン、プスッ。
 トントントントン、プスッ。
 ……うん、飽きた。5千個くらいのパンを押し、ようやく終
業時刻に。空気が漏れている割合は100
個に1つくらいだった。

移動させるか、何かをのせるか
 その後も週に3日ほどのペースでシフト
を組み、ヤマパンでのバイトを続けた。
 バイトが扱うのは、できあがった品物を
梱包したり、最後の手をくわえたりと、調
理に直接携わるというよりは、完成した商品に伴う業務が多い。
 なので仕事自体の種類は変われど、たい
ていは、移動させるか、何かをのせるか、この2つに絞られる。
 そんな単純作業に慣れるうち、季節は移
り変わり、夏に。お盆の季節が近づくにつ
れて「和菓子課」の仕事が増えてきた。ヤ
マパンバイトの年に2回の繁忙期の一つがこのお盆だ。
 私が携わったのは、みたらし団子の製造だった。
 いつものように社員から簡単な説明を受ける。
「じゃあ、この団子の焦げ目が上にくるようにひっくり返してね」
 コンビニのレジ横に並ぶ、パックの団子
を思い出してほしい。みたらし団子には必
ず黒い焦げ目がついている。あの状態にするわけだ。
 つまり、『焦げ目が上にくるように団子をひっくり返す』
のが今日のお仕事だ。
レーンの上を流れてくる串刺しの団子を、
クルっとひっくり返す。串の部分を持って
クルっ。いつものように猿でもできそうな作業である。
 両手の人差し指と親指で串をつまんで、
クルっ、クルっ。数をこなすうちに、指の
付け根が猛烈に凝ってきた…。指がつってしまうのだ。

このシールを盗んだら何枚皿をもらえるんだろな~
もう1つの繁忙期、クリスマスは、コン
ビニで売られる小さいサイズのケーキはも
ちろん、ホールケーキも製造するので、短期バイトをかなりの人数採用している。
若い高校生が友達同士でやって来たりするおかげで、いつもはやけに静かな食堂が、
キャッキャと賑やかになる。
 ヤマパンで働いていると、短期バイトが
増えるたびに、新しい季節の訪れを感じる。
お盆やクリスマスの訪れはこうやって知るのだ。
 この繁忙期に私が任されたのは、
『イチゴのヘタを取る』
 というシンプルなものだった。
 うず高く積まれた大量のイチゴを左手で
一つつまみ、包丁でヘタを切り取る。食べ
れるとこを切りすぎないように、スパっと。
ペースは1つあたり0・5秒だ。
 熟しすぎたり、形が悪かったりして、ケ
ーキに使えないイチゴは、別に仕分けする
必要があるので、その見極めも重要だった。
 これらケーキに使えない不揃いなイチゴ
たちは、イチゴ大福などの、形の良し悪し
が関係ない場所へと転用されていた。
 このイチゴのヘタを取るのは楽しい仕事
だった。一つ一つ違う形のイチゴには、攻
略のしがいがあったのだ。どう持てばヘタ
を切りやすいか? 包丁の角度は? などなど。
 バイトをやめて数年経った今でも、このときの包丁さばきを身体が覚えていて、瞬
時にイチゴのヘタを切り落とせる。自慢にもならないけど。
 他にも好きだった仕事は、
『パッケージに「春のパン祭り」のシールを貼る』
 という作業だ。
 ご存じのパン祭りのシールも、実は手作
業でバイトたちがせっせと貼っている。何
十枚というシールの束を持っての貼り付け
は、不思議と気分がよかった。
 このシールを盗んだら何枚皿をもらえる
んだろな~、というしょうもない妄想もできるし。
 実際、セキュリティはガバガバだったの
で、バイトの中には盗んでる人もいたかも
しれない。私はやんなかったけど。
★紹介できなかった仕事もいくつかあるが、
基本的な動作はほとんどどれも一緒。超単
純作業ばかりだ。
 1人で黙々と作業するのが好きな人には、
向いてるんじゃないかな。私だって3年も
続いたんだから。