いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

取引先が倒産した未払い分はどうなった

そんなバカな!とは思った。が、
弁護士さんの説明によれば、現在
の法律では、潰れた会社の財産は
まず税務署が負債額を持っていき、
次にその会社で働いていた従業員
の未払いの給料に充てられ、最後
に債権者に対し負債額に応じて平
等に支払われる仕組みになってい
るため、債権者の取り分は極端に
少なくなるのが通常らしい。


ということは、俺が汗水垂らし
て1冊書き上げた本のギャラは1
万円か2万円しかもらえないのか。
2カ月間毎日6時間この本を書く
のに費やしたとして総労働時間3
60時間。仮に2万円が返ってき
た場合、1時間あたりの時給は、
なんと弱円!高校生がファース
トフードでアルバイトしたって時
給700円はもらえる時代に、弱
円ぽっちで働くバカがどこにいる
んだ!

しかし弁護士さんは、まだ俺
の場合は原稿を書き上げる労力けで経費がそれほどかかってない
からいいようなものの、これが印
刷屋とか、なにかしら形のある品
物を納入していた業者だったら、
その経費分も回収できず連鎖倒産
してしまうところだと言う。
なるほど、新聞ではわかってい
たが、いざ自分に降りかかって来
てやっと現実味が沸いてきた。だ
から倒産が決まった会社には債権
者が我先にと押し寄せ金目の物を
根こそぎ持って行ってしまうのだ。
でも、出版社で金になりそうな
ものといえば、ぜいぜいコンピュ
ータぐらいだろう。が、それもす
でに相当使い込んだ代物なら二束
三文にしかならないはずだし、ま
してやそれがリースされた商品だ
ったら、「その場合は、コンピュ
ータの持ち主はリース会社になり、
それを持って行くと立派な盗難に
なり訴えられる」ことになってし
まう。要するに、倒産した出版社
から持っていけるものなど何もないのだ。
いや、待てよ。出版社には「本」
という商品があるではないか。と
は思ったものの、事務所に売れ残
った単行本をもらったところで、置く場所に困るだけ。

それでも仮に1冊100円で売ったらと考え
た場合、100万円を回収するに
は1万冊を売らなければならない。
1日5冊として、かかる時間は5
年以上。…どう考えても無理だ。
現実を知らされガックリと肩を
落とした俺に、弁護士さんは今後
俺のような債権者が集う債権者集
会が開かれるので、それに参加す
るよう勧めてくれた。が、そこで
債権金額が決められたところで、
しょせん2万円程度だと思うと、
その気も起きない。しかも、弁護
士さんによれば、その金は一括払
いじゃなく、1年間の月割りが普
通らしい。つまり、2万円が毎月
1666円ずつ支払われるのだ。
これでは、まさに潰れた者勝ち
じゃないか。Aの社長だって、会社を興したときか
ら借金が続いていたワケじゃなく、
過去には社長という地位に見合う
賛沢な時間を過ごしたこともあっ
たろう。そう考えると、思う存分
賛沢を味わい、後は尻をまくる人
間の方が賢いようにも思えてくる。

 

527号法廷へ入る。
と、そこにはテレビドラマ等で見
る法廷そのままの光景が広がって
いた。すでに別名ほどの債権者が
椅子に座り、開廷を待っている。
俺も空いている椅子を見つけ、す
かさず腰を下ろした


債権者用の椅子は、あっという間に埋まった。不思議な
ことに、みな落ち着き払っている。
大半は、Aが潰れて自分の会社も連鎖倒産の危機に
遭った人や、俺のように個人で請
け負った仕事の代償が全く払われ
ていないフリーランスの人たちの
はず。ならば、もっと頭に血が上
ってるのが普通だろう。
しかし、そう不思議に思う俺自
身も、なぜか頭に血は上っていな
い。時の移るいとは恐ろしいもの
で、Aが倒産したと聞かされたときに覚えた言いよ
うのない怒りはすでに消えている。
というより、もう完全にあきらめ
ているのだ。おそらく、他の債権
者たちも俺と同じような心境なのだろう。


そんなことを考えながら待つこ
と5分、ついに裁判官、破産管財
人、書記の女性らとともに、社長が法廷に入ってきた。反省しているのか安っぽい演出か、頭は丸刈りである。まずは、破産財人からAの会社の生い立ちと、その後破産するまでの経緯が説明された。
それによれば、Aは雑誌で一躍有名になり急激に会社規模を広げて行った。

その後単行本や写真集等を次々と出版
し、会社の売り上げは順調に伸び
ているように思えたが、出版界の
配本制度というか、一時的に売り
上げが伸びても、その後書店から
の返品がどのくらいあるかわから
ないにもかかわず、そんなことはお構いなしの社長は次々と新
刊本を出版、その結果どうにも首
が回らなくなり倒産に追い込まれたらしい。


が、そんなことを今さら聞かさ
れても後の祭りで、ようやく血が
下がりかけた頭に再び血が逆流す
るだけ。俺たち債権者にとって一
番関心事は金がどのくらい戻って
くるか、その一点に尽きるのだ。

倒産説明の後、ようやく潰れた
後のジャパンミックスの財産の話
になった。管財人は言う。
「未だに税金も払えない状況であ
りまして、今日お集まりいただい
た債権者の方々にまで行き渡る財
産がない状態でありまして…」
ことばはオブラートに包んであるが、要するに「おまえたちに払
う金なんか1円たりともない」と
いうわけだ。十分に予想していた
こととはいえ、改めてこのように
公の場所で言われると、なんとも
むなしい気分になる。

倒産出版社の債権者集会に参加する
「以上の件に付きまして何か質問等はございますか」
裁判長から俺たち債権者に対し
て初めてことばが投げかけられた。


と、その途端1人の債権者が立ち
上がった。お、いいぞ。この際、思う存分言ってやれ!
しかし、その内容は、以前この
債権者に対してAの社長が出した書類に社長のペン
ネームが書かれていた件について
という、俺たちには全く関係のないものだった。


そんなこと、どうだっていいだ
ろうとは思うが、だからといって
他に質問する人間も出てこない。
みな、この静まり返った法廷の雰
囲気に飲まれているのか、それと
も質問したところでどうにもなら
ないとあきらめきっているのか。
「これで第1回債権者集会を終わりたいと思います」
誰からも手が上がらない様子を
見て、裁判長が閉会を告げる。2,3時間はかかるだろうと思っていたのに、それはあっけないものだった。

その後裁判長から「個別に管財
人等に質問がある方は、この債権
者集会後質問してください」とあ
り、債権者が管財人が並んでいたが、俺は気が抜けたように法廷を後にした。


債権者集会なんて、こんなものなのだろうか。もしかしたら他の
集会では罵声が飛び交い、もっと
エキサイティングな光景が展開さ
れているのかもしれないが、それ
にしたところで、債権者に戻って
くる金は微々たるものだろう。
結局、得をしたのはAの社長で、俺はその社
長に願され貧乏クジを引かされた間抜けなライターだったのだ。そ
して、このリスクは今後俺がフリーライターという仕事を続けてい
く以上、一生つきまとうのである。