いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

ドヤ街の手配師の売り子の仕事やってみた内容給料は?

一気に目が覚める。大平さんに次ぐポジションの人物。売り子の間では恐いともっぱらのウワサだ。
「はよせえや」
「あっ、はい」
他の売り子数人と一緒に、安田さんに連れられ先日面接を受けた
ビルに入ると、部屋で幹部3人と安岡さんが待っていた。
「おう、よう来た。これ食えや」
机の上に〃うな重〃が並ぶ。イヤな予感…。
「食え食え」
「はぁ、ありがとうございます」
蓋を開け、最初の一つかみを口に運ぼうとしたそのとき。突然、
大平さんが部屋に入ってきて、幹部たちを怒鳴りつけた。
「なんで書類がこんなに散らぱっとんねん。こらあ!朝から、ボケつとすなや」

机を叩き椅子を蹴り飛ばす大平さん。そして、こちらをクルッと振り返り、笑顔で、
「気にせんで食べたらええよ」
コワー!コワ過ぎ。この状況でどうやって気にせんで食べられるっつ-の。なんてビビってたら、いつのまにか、大平さんの怒りの矛先が我々へ向いてきたからシャレにならない。
「おいオマエ。昨日の売り上げなんぽやった?」
「1万円です」
1カ月先に入った売り子が震えながら答える。
「1万円.1万円やったらなあ、店出さんほうがましなんじゃあおまえ、ゼニほしないんかい?」
「…ほ、欲しいです」
「ゼニ欲しないんかい!」
「欲しいです!」
「せやったら、ゼニたまるように死ぬ気で働かんかい!」
「はい!」
ようやく解放されると、途端に疲れが襲ってきた。こんな緊張、体に悪すぎだ。
「カメちや〜ん、こっちや。この車やで〜」
安岡さんが叫んでいる。カメちゃんって誰だ?
「オマエや、オマエ」
「へっ、オレ?」
「そうや。自分、カメラやってたんやろ。それに鈍臭いしな。せやからカメちゃんや」
うれしくない。うれしくないぞ、オレは!
「ところで自分、俺の名前は知ってるかぁ?」
「安岡さん、ですよね」
「そうや。よう知っとったな。今日はとりあえす目分1人で焼いてみたらええ」
おお、やっと1人前と認められたか。研修期間と違って、今日から給料も出るのだ。よしよそういうことなら、気合い入れ直そうじゃないか。
1日働いて3600円。
時給200円にも満たない慣れない手つきで何とか順を整え、いざ開店。鳥を焼き、大きな声を出す。が、売り上げは4時間でたったの2千円。最低の数字である。と、そこへ、見回りの安岡さんが現れた。
「ナンボ売れたん?」
「…2千」
「聞こえんわい」
「2千円です」
「自分…寛平ちゃんの『わしや止まったら死ぬんじや!」ってギャグ知ってるか?」
「いえ、知りません」
「なんやと、ボケ!止まったら死ぬんじゃ。せやからずっと動き続けんかい!臭い出しにタレ焼いて、おばちゃんにはお嬢さん言うて、がんがん動き回っとったら自然に客の方から寄って来るんじや。ちよい貸せや!」
言うが早いが、オレと入れ替わり、安岡さんが客寄せを始めた。
「焼き鳥おいしいよぉ!こうてって〜!そこの美人のおれーさん」

おかげが、その後は順調。夜中の。

1時過ぎまで粘り、在庫すべてを売り切った。売り上げ1万8千円。
初日にしては好成績だろう。
が、もらえる給料はその3600円。朝の準備時間も入れて換算すると、時盤給200円にも届かない。これでいいのか?
「東京までの運賃貸してくれたら一緒に飛ぶで」
仕事は日増しにキッくなった。
まず、朝9時の起床と同時に西成の居酒屋へ移動しひたすら串打ち。評冷蔵肉なので手の感覚がだんだん、掌なくなってくる。それが終わると邸今度はプロパンガスと具材をバンへ積み込み、各屋台へ運搬。午後5時からは深夜の2〜5時まで自分の屋台でひたすら〃焼き″だ。

寮へ帰るのは、だいたい朝だから睡眠時間は約2時間しかない。
疲労は蓄積し、思考能力は著しく低下、生傷も耐えない。
売り子はみな睡眠不足のせいで、火傷や切り傷は日常茶飯事だ。時には焼台の水入れに誤って灯油を入れ爆発させた、ガスが消えて酸欠に。