いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

ドヤ街の手配師の売り子の仕事やってみた内容給料は?

一気に目が覚める。大平さんに次ぐポジションの人物。売り子の間では恐いともっぱらのウワサだ。
「はよせえや」
「あっ、はい」
他の売り子数人と一緒に、安田さんに連れられ先日面接を受けた
ビルに入ると、部屋で幹部3人と安岡さんが待っていた。
「おう、よう来た。これ食えや」
机の上に〃うな重〃が並ぶ。イヤな予感…。
「食え食え」
「はぁ、ありがとうございます」
蓋を開け、最初の一つかみを口に運ぼうとしたそのとき。突然、
大平さんが部屋に入ってきて、幹部たちを怒鳴りつけた。
「なんで書類がこんなに散らぱっとんねん。こらあ!朝から、ボケつとすなや」

机を叩き椅子を蹴り飛ばす大平さん。そして、こちらをクルッと振り返り、笑顔で、
「気にせんで食べたらええよ」
コワー!コワ過ぎ。この状況でどうやって気にせんで食べられるっつ-の。なんてビビってたら、いつのまにか、大平さんの怒りの矛先が我々へ向いてきたからシャレにならない。
「おいオマエ。昨日の売り上げなんぽやった?」
「1万円です」
1カ月先に入った売り子が震えながら答える。
「1万円.1万円やったらなあ、店出さんほうがましなんじゃあおまえ、ゼニほしないんかい?」
「…ほ、欲しいです」
「ゼニ欲しないんかい!」
「欲しいです!」
「せやったら、ゼニたまるように死ぬ気で働かんかい!」
「はい!」
ようやく解放されると、途端に疲れが襲ってきた。こんな緊張、体に悪すぎだ。
「カメちや〜ん、こっちや。この車やで〜」
安岡さんが叫んでいる。カメちゃんって誰だ?
「オマエや、オマエ」
「へっ、オレ?」
「そうや。自分、カメラやってたんやろ。それに鈍臭いしな。せやからカメちゃんや」
うれしくない。うれしくないぞ、オレは!
「ところで自分、俺の名前は知ってるかぁ?」
「安岡さん、ですよね」
「そうや。よう知っとったな。今日はとりあえす目分1人で焼いてみたらええ」
おお、やっと1人前と認められたか。研修期間と違って、今日から給料も出るのだ。よしよそういうことなら、気合い入れ直そうじゃないか。
1日働いて3600円。
時給200円にも満たない慣れない手つきで何とか順を整え、いざ開店。鳥を焼き、大きな声を出す。が、売り上げは4時間でたったの2千円。最低の数字である。と、そこへ、見回りの安岡さんが現れた。
「ナンボ売れたん?」
「…2千」
「聞こえんわい」
「2千円です」
「自分…寛平ちゃんの『わしや止まったら死ぬんじや!」ってギャグ知ってるか?」
「いえ、知りません」
「なんやと、ボケ!止まったら死ぬんじゃ。せやからずっと動き続けんかい!臭い出しにタレ焼いて、おばちゃんにはお嬢さん言うて、がんがん動き回っとったら自然に客の方から寄って来るんじや。ちよい貸せや!」
言うが早いが、オレと入れ替わり、安岡さんが客寄せを始めた。
「焼き鳥おいしいよぉ!こうてって〜!そこの美人のおれーさん」

おかげが、その後は順調。夜中の。

1時過ぎまで粘り、在庫すべてを売り切った。売り上げ1万8千円。
初日にしては好成績だろう。
が、もらえる給料はその3600円。朝の準備時間も入れて換算すると、時盤給200円にも届かない。これでいいのか?
「東京までの運賃貸してくれたら一緒に飛ぶで」
仕事は日増しにキッくなった。
まず、朝9時の起床と同時に西成の居酒屋へ移動しひたすら串打ち。評冷蔵肉なので手の感覚がだんだん、掌なくなってくる。それが終わると邸今度はプロパンガスと具材をバンへ積み込み、各屋台へ運搬。午後5時からは深夜の2〜5時まで自分の屋台でひたすら〃焼き″だ。

寮へ帰るのは、だいたい朝だから睡眠時間は約2時間しかない。
疲労は蓄積し、思考能力は著しく低下、生傷も耐えない。
売り子はみな睡眠不足のせいで、火傷や切り傷は日常茶飯事だ。時には焼台の水入れに誤って灯油を入れ爆発させた、ガスが消えて酸欠に。

amazonの配達員は稼げるのか?給料は?

アマゾンで商品を買ったら、発送報告のメールに「この商品はAmazon
が発送します」と書かれていてガッカリ、という経験はないだろうか。
 
ヤマトや日本郵政など大手の宅配業者ではなく、あのデリバリープロバイダか…。
 
大手とちがって不愛想だし、仕事ぶりも適当で素人っぽい。あまつさえ指定した時
間に遅れることもよくあるし…。
 
テレビのニュースでも、商品を乱暴に扱
う姿が取り沙汰されていたけど、そもそも
あいつらっていったい何者なんだ?
 
そんな悪名高いデリバリープロバイダの
実態について、現役の配達員である加藤氏(仮名・
31才)に詳しく語っていただこう。


給料は歩合制で荷物を一つ運ぶ毎に150円
現在、31才の私は3年ほど前から、関東のとあるデリバリープロバイダ(以下・デリプロ)で働いている。
それまでは飲食店の店長をしていたが、あまりの激務に体調を崩し、転職せざるを得なかったのだ。

そんな人生のどん底の時期に求人サイトで見つけたのが、デリプロの求人である。
﹃アマゾンのルート配送ドライバー募集。
月給30万以上保証。50万も可能! 未経験者OK!﹄ものすごい好待遇である。
 

なにせ当時は今ほどデリプロについての悪評が一般には浸透しておらず、私自身アマゾンの配送の仕組みをよく理解していなかったのだ。
一応近所の大手宅配業者も転職先として検討はしてみたが、配達用の車が自前で必要だったり、ロイヤリティなる契約費用を請求されたので、却下。
デリプロなら金銭的なハードルなしで、身一つで働き始めることできたのだ。
さっそく、掲載された番号に連絡すると、その電話口で採用が決まり、翌々日には仕事の説明をするために出社してほしいとの返事をいただいた。

あまりのスムーズさに人手不足の業界なんだな、と感じたのを覚えている。
面接当日は何台かの軽バンが並ぶ倉庫のような場所で、社長直々にデリプロという業態について説明を受けた。
「平たく言えば、デリプロってのは、うちみたくアマゾンの荷物を配送する中小の運送屋のことね」

具体的には日本郵政クロネコヤマト、佐川急便、の大手3社以外の運送業者のことを総称してデリプロというそうだ。
2018年当時は、アマゾンの配送のうち約4割をデリプロが担っており、扱うのは主に当日便や翌日便など急ぎの荷物である。
そのため、配達にはかなりのスピードが要求されるので、これもデリプロの仕事が杜撰になる理由の一つだった。
「うちで働くドライバーは20人。彼らと手分けしてアマゾンの倉庫からきた荷物をこの辺りの地域に運んでもらうから」
 

早朝、アマゾンの巨大な倉庫(フルフィルメントセンター・FC と略される)から届いた荷物を、20人で手分けして担当地域に配達するとのことだ。
「最初は慣れないかもだけど、移動範囲が狭いから何日か働けばルートを完璧に覚えられるし、かなり稼げるはずだよ!」
佐川やヤマトに比べて、アマゾンの商品だけを運ぶデリプロは、一般家庭が主な配達先なので、住宅街に配送ルートが限定されており、社長曰く「比較的ラク」とのこと。
「給料は歩合制と固定制どっちか選べるんだけど、試用期間中の3カ月は日当1万2千円で固定ね」
歩合制の場合、荷物を一つ運ぶ毎に150円。つまり月給30万以上稼ぐには、1カ
月に2千個、土日を休んだとしたら1日に最低でも100個配達しなきゃならんわけ
だ。途方もない数である。
固定制の場合はどれだけ数が多かろうが少なかろうが日当は1万5千円。
つまり仕事に慣れて1日100個以上配れるまでは固定で、数をこなせるようになったら歩合に変更、というパターンが正解のようだ。
「ただ注意して欲しいのが、社員じゃなくて業務委託だからそこんとこよろしくね!」
 

かくしてデリプロドライバーの一員となったわけだが、察しのいい方ならお気づきのとおり、この時点で社長はメリットばかり語っていて、デメリットを濁している。
例えば求人に書かれている月収30万保証。
たしかに固定給の日当1万5千円で20日働けば月収30万はもらえる。
しかし、業務委託契約なので、配達用の車のリース代、ガソリン代、仕事で着る洋服、保険その他諸々の経費は、こっち持ちだ。
そのため30万の月収があったとしても、実際の手取りはガタンと落ちて20万円前後となってしまう。これがカラクリである。
まあ、このときは転職が上手くいった喜びでそんなこと考えてもいなかったのだが…。
あれじゃバックミラー見えないだろうな…
 

さて、初日の仕事である。
 朝7時に配送センターを訪れて、他のメンバーに挨拶をする。
 だいたい20代後半から40代半ばくらいの年齢層。みんなボーっとしてなんとも無気力な感じだ。運送屋だから体育会系な雰囲気かと思っていたが拍子抜けである。
 そこに面接をしてくれた社長がやってきた。
「あっ、加藤君の車はこれね。あとこれが端末と携帯。一応ルートの地図も持っておいて!」
 大した説明もなく、いきなり配達をさせられることになった。急すぎるよ!
「そこに荷物がまとまってるから、じゃあ後はよろしく!」
 一列に並ぶ軽自動車の前には、おなじみアマゾンのスマイルロゴが描かれた段ボールがこれでもかと並んでいる。すでに担当ルート毎に荷物が分けられているようだ。
 これを積んでいけばいいのか?
アタフタしてる私を見かねて、となりでバンバン猛スピードで荷物を積み込む中年のオッチャンが声をかけてくれた。

「おい、大丈夫か?」
「…は、はい。ここにあるのを積めばいいんですよね?」
「あとで楽なように、ロッパチとかシチクが奥で、ゴゼンを手前に入れときな!」
 は? 何語ですか?
「時間指定だよ! 夜の7時から9時の配達がシチク!」
 なるほど、じゃあ6時から8時がロッパチ、午前中の配達がゴゼンだな。
 どうやら時間指定がある荷物とない荷物の両方を一緒くたに配っていくみたいだ。
「時間指定があるのを中心にルートを組み立てて、それに合わせて時間指定がないのを取り出しやすい所に置いておきな」
 ルートと言われてもいきなりじゃ頭がパンクしてしまう。新人にそこまで求めるの
は酷である。
なんとか言われたとおりに軽バンに積み込んでいき、40分以上かけて完了。
車内には約100個の段ボールがうず高く積まれているが、これでも初日なので数は少な目にしてくれたみたいだ。
隣の軽バンのオッチャンは車内ギチギチに段ボールが積んであるし、あれじゃバックミラー見えないだろうな…。
さあ、いざ配送に出発だ。
車に乗り込む間際、オッチャンが声をかけてくれた。
「まあ、最初は大変だろうけど、頑張りなよ」
 新人に大した説明もせず、いきなり仕事を任せるって、どうなんだよ…。
午前中に指定したんだから家にいてくれよ!
配達の開始時刻は午前8時。これより早く始めるとクレームが来るので、時間ピッタリを守らなくてはならない。
さっそく配送センターから車で20分ほどの場所に赴き、午前中指定の一軒家の前に車を停める。
ハッチバックを開けて段ボールをつかむ。
玄関のチャイムを鳴らすと、インターホンから女性の声が聞こえてきた。
「はーい。どちら様ですか?」
「アマゾンです~! お荷物お届けに参りました」
「はいはい。ちょっと待っててください」
 玄関からハタチ前後の若い女性が現れた。女子大生かしら?
「こちらにサインをお願いしま~す」
ボールペンを差し出して書いてもらい、ピッと端末でバーコードを読み込んで、荷物をお渡しする。
これで記念すべき1軒目が終了。時間にすれば30 秒ってところか。
次のお宅は近いので、同じ場所に車を停めたまま、小走りで向かう。
 ピンポーン。ピンポーン。
 あれ? 出ない…。
仕方ないので不在連絡票を記入し、郵便受けに突っ込む。午前中に指定したんだから、家にいてくれよ…。
地図を頼りに次の場所へ。午前中指定の荷物を中心に配っていると、朝に渡された携帯が鳴った。
うざったいなあ。車を路肩に寄せて電話に出る。
「はい。アマゾンです」
「もしもし、不在連絡票入ってたんだけど、これから来れる?」
さっき、不在票を入れた家だ。かなり遠くに来てしまったので、すぐに向かうのは難しい。それにルートが崩れて大幅な時間のロスになっちゃうし。
「えーと、夕方でしたらそちら伺えますよ」
「は? 夕方? チっ、午前中に指定してんだから、スグに来いよ」
 いや、午前中にいなかったのはそっちでしょ!
「申し訳ございませんが、それは難しいす」
「ああ、じゃあ、夕方に頼むわ」
 こんな風に、指定した時間内であれば、いつでも届けることができると勘違いして
る方が、結構いらっしゃる。まあ、イラつく気持ちはわかるけど。

その後も慣れない運転と配達を繰り返し、とりあえず午前中指定の分は配り終えた。しかし全部でまだ15個くらいしか配れていない。ヤバイなあ。100個もあるのに…。
 と、ここで再び携帯が鳴った。社長である。
「もしもし、加藤君? 大丈夫か?」
「やっと午前中指定を配り終えたところです。けどまだ全部で15個くらいで…」
「そりゃかなり遅いな…。昼便は取りに来なくていいから。もうちっとスピード上げないと後々ツライぞ。未配(次の日に持ち越すこと)はなるべく減らせよ!」
 本来であれば、午前中にセンターに届けられた、昼便の荷物を取りに行く必要があるのだが、初日だったので免除してもらえた。
昼メシ食ってる時間はないので空腹の身体にムチを打って作業開始だ。腹減ったよ~。
お届け、不在、電話、移動といったサイクルを何十回と繰り返すうちに日が暮れていく。
急がなくてはいけないので、ロクにシートベルトもつけずに無我夢中で配達する。ところが急いだせいで誤配を連発し、ますます時間をロスしてしまった。
 夜の20時を過ぎても全然配り終わらない。
するとまたもや社長から電話が入った。
「おい加藤、一回センターに戻ってこい!」
 言われるがままセンターに戻ると、そこには他の同僚たちの姿が。
「お前の未配を手分けして配るからよこしな」
 明らかに不機嫌な彼らに段ボールを渡す。
うう、すみません。
 かくして勤務初日は終了。結局初日で配れたのはたったの60個だった。
 自宅に帰ったのは深夜の23時。1日中小走りしてたのでふくらはぎが筋肉痛だ。
当然翌日の出勤も朝7時。あまりにもキツかったので、翌日バックレようかとも考えていた。デリプロの仕事は、新人もベテランも一日の作業内容自体に特別な違いはない。
 しかし、仕事を続けているうち、いかに効率的に早く荷物を配るか、そして未配を減らすか、という技術が上達していく。
配達できる数を増やせば増やすほど、それに比例して収入が増えるのだから当然である。なので配達員ごとに裏技というか、荒技が存在する。
 例えば私がよくやっていたのが、本や小物が入った薄い段ボールを、郵便受けに無理矢理にでも突っ込むという荒技。
多少段ボールがつぶれたとしても、アマゾン特有の過剰包装で、中の商品には傷がつくことはメッタにないので大丈夫。
ポストの入り口に入らない場合は、裏からトビラを開けてでもネジ込んでいた。これができるだけで、抜群に効率的になるのだ。
 他の荒技にはこんなのもある。
担当ルートに、エレベータなしの5階建ての団地が10棟ほどあり、荷物を届けるたびに、歩いて昇らなくてはいけなかった。
しかも、プライムデーというアマゾンのセールで安くなった水や炭酸水の注文があったらもう最悪。
荷物を持って5階まで上がり、不在だったら、持って降り、時間を空けてまた再度…という地獄のようなケースまで頻発するのだ。
なので私の場合、部屋にいるかどうかを、いちいち上まで昇って確認せず、1階のポストに不在連絡票を入れておいて、向こうから電話がかかってきたら、在宅時間を聞いて届けるという荒技をしていた。
「チャイムが鳴ってないのに不在票が入っていた」とクレームが来ても、自分は押したの一点張りで突き通す。古い団地でインターホンにカメラがついてない場合のみ通用する荒技だ。
これをお読みになって疑問に思う方もいるだろう、なんでそんな無茶ができるか、と。
 それはひとえにデリプロを相手にクレームを入れるのが面倒という理由がある。
例えば、ヤマトや佐川のような大手であれば、ホームページを検索し問い合わせ窓口にクレームを入れれば、当日のうちに直接ドライバーに連絡が入る。
 しかし、デリプロはアマゾンのサイトを開いて問い合わせフォームからメールを送り、文字でのやり取りを経由してから、ようやくデリプロに連絡がいく。
 つまり数日のタイムラグがあるのだ。
 なのでクレームを入れる絶対数が少ないし、アマゾン側もクレームは日常茶飯事なので、契約解除をするほど大袈裟に騒いだりはしないのである。

突っ伏してなかったら激突して死んでたよ
このように会社側からの要請や規則、コンプラはあってないようなものだし、それに加えて同僚もヤバイ奴揃いだった。
改めて説明すると、デリプロに入社する人は、私のような素人の未経験者、素行の悪い元運送業者、他のデリプロからの移籍組、が主である。
素人は仕事に慣れてないだけなので特別な害はないが、他の宅配業者からの移籍組はスネに傷がある奴らばかりだった。配達中に人身事故を起こした奴とか、代金引換の金を横領してクビになった奴とか、デリプロはそういう人の再就職先になっているのだ。
ドライバー同士はお互いに干渉することは少ないのだが、以前、珍しく開催された飲み会で、こんな話題になった。
「なあ、今までで一番のヒヤリハット体験談を出し合おうぜ」
仕事で車を扱う人間のすべきことではないのはわかりきってるが、こういう下品な話題が盛り上がるのだ。
私が披露したのは、猛烈な睡魔に襲われて、一瞬記憶が飛んだという話。しかし、その程度のレベルは誰もが経験しているようだった。
「睡魔だったら俺もあるよ」
 そう言って語り始めたのは40代のオッチャンドライバーだ。
「12月の繁忙期に20連勤しててさ。その日も夜10時くらいまで配ってて、体力の限界がきたのよ。で、運転中に気が付いたら意識が飛んじゃって、プーーっていう音で目を覚ましたんだよ。なにかと思ったら、俺なぜかハンドルに腕を突っ伏してたみたいで、自分の手でクラクションを押してたんだよ。寝ながら。その音で意識が戻って、なんとか事なきを得たんだよな…」
 突っ伏してなかったら激突して死んでたよ、と苦笑いしながら語るオッチャン。怖すぎるだろ!
﹁美人の住所を全部メモってあるんだよ﹂
 他にも同僚にはとびきりの変態がいた。そいつの名前は竹内。
 何がヤバイっていきなりこんなことを言ってきたのだ。
「俺の美人マップ見る?」
差し出されたスマホには、女性の名前、推定年齢、住所、在宅時間、電話番号が詳細に記されていた。
「…へー、これどうしたんですか?」
「配達先の美人の住所を全部メモってあるんだよ。なんかあったときのためにさ」
「なんかあったとき」ってなんだよ!
 ご丁寧に住所ごとにグーグルマップに印までつけてあるし…。気持ち悪い…。

しかし、なんで電話番号がわかるんだろう?
「ああ、それは簡単。あえて在宅してない時間に不在票を入れて、相手に電話させるんだよ」
ドライバーに直接電話がかかってくれば番号を控えられるんだと、自慢げに語る竹内。
「休みの日には、この美人マップを頼りに、散歩するのが趣味なんだよね」
大手とちがってコンプラ意識が低い上に、容易に客の個人情報を仕入れることができてしまうんだから困ったものだ。
こんなキモい男に電話番号を知られてたくない方は、ドライバーに直接電話するのではなく、ウェブで再配達を依頼するか、コンビニで荷物を受け取るようにしましょう。
 こいつ近いうちに逮捕されると思う。マジで。
★最後にコロナ以降のデリプロ事情についてお話しよう。
 まず、2020年3月以降、置き配や宅配ボックスが増えてきたことで、めちゃくちゃ配達が楽になった。
しかも、巣ごもり需要で荷物の数が増えているので収入も上がっている。
 現在の1日の配達個数は平均160個ほど。歩合制の月収は45万ほどで、手取りも増えて30万前後くらいになっている。
 とまあ一見、順調に見えるが実際はそうでもない。
 現在アマゾンはデリプロを介さず、直接個人のドライバーと契約する、アマゾンフレックスというシステムを導入し始めている。
 これによりデリプロの数が減っており、このままでは危ない状況なのは間違いない。私自身、アマゾンフレックスへの鞍替えを検討中だ。
だがそうなるとアマゾンの一存で単価が上下したり、急な契約内容の変更を強要される可能性があり、これ以上の激務になるかもしれないので、決めあぐねている最中だ。

給料は完全歩合制蓄電池の飛び込み営業

大学3年生だった俺は、就活に対して漠然とした不安を感じていた。
 一足先に有名企業の早期選考
に合格する友達を尻目に、「俺
もなにかしなきゃなぁ」と焦燥
感に駆られていたのだ。
 そんな思いが強くなり、夏休
み明けの9月、就活で有利にな
りそうなアルバイトを探すことにした。
 社会人といえば営業力は欠か
せない。そう考えていた俺は、
求人広告でたまたま目に入った、
とあるベンチャー企業に惹かれる。

そこには、
<数百万円のモノを売る営業です! 大学生歓迎! 時給1500円〜>
との説明が。営業スキルを身
に付けながらお金をもらえるな
んて最高じゃん! 数百万のモ
ノを売ったなんて就活のネタに
もなりそうだし! と、すぐさ
ま応募したら、簡単な面接を受けてあっさり合格となった。
 実際に営業として働く前に、
「アプローチトーク」なるマニ
ュアルを覚える必要があるらし
い。さっそく渡されたA4の紙に目を通すことに。
 読み進めるごとに、嫌な予感
がしてきた。
インターフォン
やら<自己紹介>といった説明が目立つのだ。
 あれ? この仕事ってもしや
飛び込み営業なの…?勤務初日。事前にメールで伝
えられた都内の某駅前に着くと、
そこには俺の他にも多くの大学生がいた。
 近くの公園に移動し、社員に
よる朝礼から勤務内容へ。俺た
ち営業の役割は、とにかく契約
を取ることにあるらしい。
 で、何の契約を取るかという
と、家庭用の設備、とりわけ「蓄
電池」がメイン商材となる。大
型のモバイルバッテリーのよう
なもので、停電時に効果を発揮
したり、太陽光発電との相性が
良く、ここ5年ほどで注目を集
めているらしい。つまり求人広告で見かけた、
数百万円のモノを売る営業とは、
蓄電池の飛び込み営業だったのだ。
 この時点でだいぶハードな予
感はしたが、さらに説明は続く。
営業で出向くエリアまでの交通
費は全額自己負担であることに
加え、給料は完全歩合制。
300万円の蓄電池を1世帯契
約して、ようやく8〜10万円の
成果報酬が支払われるのだとか。
求人広告と言ってることが全然違うぞ。
 説明していた社員と入れ替わ
りで、ゴリゴリのラガーマン
ような体格をした支部長が登場した。
 このラガーマンに営業のコツ
(ほぼ自分語り)を聞かされた後、大声で鼓舞された。
「お前ら! 売って売って売りまくるぞ!」
 周りの大学生たちも目を輝か
せながら話を聞いていて、なん
だか不気味な空間だ。
 こうして30分ほどの朝会が終わり、一斉に営業がスタートする。
 各々に割り当てられたエリアの中で、地図アプリを使って目
星をつけ、ひたすら飛び込み営業していくのだ。
 先ほどのラガーマンに鼓舞さ
れてやる気が出たのか、大学生
たちは続々と自分のエリアに歩
みを進める。俺も金持ちそうな
一軒家に片っ端からピンポンを押しまくった。
 眉間にシワを寄せた家主を相
手に、片手にマニュアルを持ちながら笑顔で話す。
 きっとウサン臭いセールスマンだなぁとでも思っていたに違いない。朝から晩まで計50軒ほど営業したにも関わらず、1件も契約には結び付かなかった。
 こうして泣かず飛ばずだった
俺も、3カ月が過ぎたころには
徐々に結果がついてきた。営業
トークが上達したのも理由のひ
とつだが、ターゲットを老夫婦
に絞ったのが大きい。
 ジジババは若者の話を素直に
聞いてくれる。しかも退職金を
持て余しているパターンが多い
ので、簡単に契約に結び付くのだ。
 かくして少しずつ成績を伸ば
していた俺に、先輩から呼び出
しが。
「来週は東北に出張な」
 事業拡大に伴い、地方で営業してこいというのだ。
 仕方なく自腹で新幹線に乗り、
某田舎へ。
12月の半ばということもあり、凍えるような寒さが肌に染みる。
 もちろんこんな状態ではまと
もに営業できるはずもなく、契約はゼロだった。
 結局、給与体系に元々不満が
あったことに加えて、飛び込み
営業が精神的にキツかったこと
もあり、わずか半年で辞めてしまった。
また、辞めた後に知ったこと
だが、俺のように求人広告に釣
られる大学生が後を絶たないらしい。
 この営業は、とにかくお得に
蓄電池を買えることを売りにし
ていたが、ネットを見れば
100万ほど安く手に入るので、
情弱向けのビジネスとしか言いようがない。

辛いで有名な山崎製パンでアルバイトしてみた

キツイ仕事の代名詞として有名なのが、
山崎製パンの工場アルバイトだ。
 
ネット上には悪評の数々がズラっと並んでいる。
「単純作業の繰り返し」
「時間が一向に進まない」
「退屈すぎて死ぬ」
 
編集部のおっさん、サトウによれば、この種の悪評は30
年前からすでにあったという。 
果たして本当のところはどうなのだろうか。
 
実際に山崎製パンでアルバイト経験のあ
る女性に、その業務内容を詳しく語ってい
ただくことにした。

ヤマパンバイトが辛いのは有名だった
私が山崎製パン(以下・ヤマパン)でア
ルバイトをしていたのは今から7年前、
22才から25才までの3年間だ。
 

4年制大学を卒業して大学院に進学し、
心機一転、新しいバイトを探していたとこ
ろ、ネットでヤマパンのバイト募集を発見
したのが、最初のきっかけである。当時から、ヤマパンバイトが辛いのは有
名で、2chなどの掲示板では、たびたび
ネタにされていた。
 そこに好奇心をくすぐられた。せっかく
なら、何か話のネタにでもなった方がいい
かな、と応募を決めたのだ。私自身一人っ
子で、孤独に黙々と作業するのが得意だっ
たというのもある。
 ホームページに記された電話番号に掛け
て、働きたい旨を伝えたところ、説明会に
来てほしい、との返答が。ヤマパンのよう
な大手企業は常時バイトを募集しているの
で、通年で週に何度か説明会を開催しているようだ。
 

説明会当日、集合場所はヤマパンの工場
内にある会議室だ。
学校の教室くらいの大きさの会議室に、
私を含め10名ほどの男女が集まっていた。
 年齢層は40代以上の方が多く、オジサン、
オバサンが目立つ印象。私が一番若いぐらいだ。
 そこに男性従業員が入って来た。
「はじめまして。ではこれから説明会を開
始しますね~」
 約20分ほどで業務内容やアルバイトの待遇が説明された。
 時給は950円。中々の高水準である。
 昼勤が9時から18時で、夜勤が18時から翌5時とのこと。
 待遇自体は一般的である。ちょっと拍子抜けだ。
「みなさん、本日はお越しいただきまして
ありがとうございました。では、これから
お配りする紙に希望するシフトを書いて、
履歴書と一緒に提出してください」
 カレンダーのような形式のシフト表が配
られた。特に面接などはなく、働きたけり
ゃ誰でも採用ってことみたいだ。

あんぱんにゴマをのせる仕事
 翌日、初出勤の日。
 まずは更衣室で作業着に着替える。恥ず
かしながら私はかなり太り気味なので、自
分に合ったサイズのユニフォームがあるの
か心配だったのだが、更衣室の前には、S
から5Lくらいまで、洋服屋顔負けのもの
すごいサイズ展開がなされていた。これな
ら、どんだけデブが働きに来ても大丈夫そ
うだ。ロッカーで作業着に身を包み、帽子とマ
スクをつけて準備完了。目しか出てない完全防備である。
 その後、テニスコート3面ぶんくらいのクッソ広い食堂にバイト全員が集合。
総勢100名くらいだろうか。全員が真っ白な作業着なのでかなりおかしな光景だ。声を聞かないと、相手が男か女かもわかんないし。
 1人の従業員が前に立って説明を始めた。
「はい。おはようございます。それでは振り分けます。
和菓子課、鈴木さん、佐藤さん、平井さん…」

バイトたちは当日になって初めて自分の
担当する仕事がわかるみたいだ。
「…はい、次は菓子パン課、池田さん、宮田さん…」
おっ!呼ばれたぞ。急いで行かなくちゃ。

菓子パン課ってなにをやらされるんだろ?
 社員さんに率いられて、ベルトコンベヤの前に案内された。
「それじゃ宮田さんにはここで、やっても
らうから、ちょっと見ててね」
 彼の手には銀色のボウルが。中には小さ
なツブツブが入ってる。白ゴマのようだ。
 ゴーっと音を経てて、目の前のベルトコ
ンベアが動き始めた。横に2つ、縦に3つ、
計6個のまとまりで並んだあんぱんが次か
ら次へとやってくる。
 そのあんぱんの上に白ゴマを20粒ほどずつのせていく社員さん。
「これぐらいの量って覚えておいてね。だいたい一つまみで」
「はい。わかりました…」
 つまりこの仕事は、
『流れてくるあんぱんの上にゴマを数粒ずつのせる』という作業だ。聞きしに勝る単純さである。こんなの、機械にやらせりゃいいのに…。
「ゴマがなくなったら、あそこから取ってきて続けてね」
 指差す先には、大量のゴマが入ったトレイが並んでいた。
「じゃあ、後はよろしく」
 よし、やりますか。ボウルを片手に、流れてくるあんぱんの上にゴマをせっせと落としていく。ほいほいほい、と。
 だいたい5秒に1回くらいのスピードで
6つのあんぱんが流れて来るので、のんび
りはしていられない。絶妙なスピードだ。
 焼きたてのあんぱんからは、香ばしいニ
オイが漂ってきて、とても美味しそう。あ
ーいい香りだなー。
 なんて言ってる場合じゃない。ほいほい
ほい、ほいほいほい、と。うん、もう飽き
てきたよ。まだ5分も経ってないけど。
 仕方ない、どうやってゴマを振るのが一
番効率的で疲れないか、考えてみるとしよ
う。考えるってほどでもないけど。
 試行錯誤した結果、左右ジグザグにゴマを振るのが腕に疲労がたまらないことを発
見した。これで楽になるぞー。
 …なんてことはなかった。腕の疲労どう
こうじゃなく、考えることがないのがツライ。
 時計に目をやる。作業開始から20分しか経過してない。うわ…。
食べ放題のパンを誰も食べない
 次第に、何も考えなくても自動的に身体
が動くようになった。ゴマを取る量も指先
が覚えているので、いちいち確認せずとも
勝手に動く。肉体と精神が分離していく、
なんとも不思議な感覚だ。
 脳内は全く別のことを考えはじめる。
(今日家帰ったらなに食べようかな~。あ、でもレポートやらなくちゃ~)
(レポートの参考文献どうしよっかな。書き出しを今のうちに考えとくか)
 ふと工場内の別の人に目を向けても、誰も会話をしていない。機械がリズミカルに動く音だけが鳴り響く。
 時刻が12時近くなったところで、先ほどの社員さんがやってきた。

「宮田さん、お昼休憩入っていいよ~」
よし、やっと休憩だ! さすがに3時間以上同じ作業をしているので、肩が凝ってるぞ。伸びをしながら食堂に戻る。はー、疲れた。
 食堂には同じく作業着姿の方々で溢れて
いた。少数の仲の良さげなオバチャングル
ープはかたまって弁当を食べているが、基本は1人。
 当然、私も友達なんぞいないので、1人
で椅子に座り、一杯250円の醤油ラーメ
ンをすする。うん。安いけどそれなりにおいしいぞ。
 隅っこでは、印字をミスったり、形が悪
くなったパンが無料配布で食べ放題になっ
ていた。だが誰も食べてない。毎日、目に
してるものを食べる気にならないのかな。
1時間で休憩時間は終わり、終業の18時までまたゴマを振りまくって初日は終わった。

これ、人間がやる必要あんのかな?
次の出勤日の配属は「食パン課」だった。社員やパートのオバチャンと違って、アル
バイトは出勤のたびに別の仕事に従事するらしい。
 社員さんに渡された軍手を2枚重ねにつ
けて、ベルトコンベアの前に立つ。はいは
い、本日はどんな仕事ですか?
「食パンが流れてくるから、それを隣のレ
ーンに移動させてくれるかな」
今日の仕事は、
『ベルトコンベアを流れる食パンを、隣のコンベアに移動させる』
 である。これ、人間がやる必要あんのかな?
 ではやりましょう。
 続々と流れてくる、焼きあがったばかり
の食パンを片手でつかみ、自分の後ろ側に
あるレーンに置く。足を動かす必要がない
ので、身体をひねるだけだ。
 えっさほっさ、と移動させまくる。前回
よりも体力を使うなあ。
 社員から注意が飛んできた。
「ちょっと! 宮田さん! 強く握らない
で優しく移動させてくれるかな」
 おお、思わず力が入ってしまっていたみ
たい。食パンがヘコんだら大変だもんな。まだ焼きあがったばかりで耳の部分がカ
リカリ状態なので、力を入れすぎたら簡単
に割れてしまいそう。気を付けなきゃ。
 にしても焼き上がったばかりなだけあっ
てパンが熱い。軍手を二枚重ねにしてても、
モワっと熱気が漂ってくる。こりゃ体力を奪われるな。
 左右に身体をひねって食パンを移動させ
続けること1時間。汗がじんわりにじんで
きた。あー、腰が痛くなってきたよ。つー
か、こんな左右に移動させるだけの仕事が
この世にあっていいのか…。
 作業着の下が汗でビチャビチャになった
ところで、ようやく休憩時間になった。

モグラ叩きに似てる気がする
 あっという間の昼休憩を終えて工場に戻
ると、社員さんから声をかけられた。
「宮田さん、ここはもういいから、こっち
来てくれる?」
 やった~。灼熱地獄から解放~。次は疲
れないのがいいな。
「じゃあ、ここを流れてくるパンを押して、
空気漏れを確認してくれる? こんな風に」
 そう言って、ギュッと指でパッケージを押す社員さん。
「……押すだけですか?」
「そそ、袋を押して確認ね」
 つまり午後の仕事は、
『パンの袋を押して漏れを確認』
 である。
 確認、という部分に、人間ならではの能
力への期待があるように思える。
 ビニール袋に入った菓子パンが大量に流
れてきた。こりゃ急がなくっちゃ。
 トントントン、と袋を押す。いきなりプ
スッと空気が抜けたパッケージを発見した。
おっ、こいつはダメだな。別の場所によけておこう。
 トントントン。さっきの作業より体力的
には楽だけど、これまたものすごい単純作
業だ。なんとなくゲーセンにあるモグラ
きに似てる気がする。無限モグラ叩きだ。
 トントントン、プスッ。おっと、またもや空気漏れを発見。
 トントントン、プスッ。
 トントントントン、プスッ。
 ……うん、飽きた。5千個くらいのパンを押し、ようやく終
業時刻に。空気が漏れている割合は100
個に1つくらいだった。

移動させるか、何かをのせるか
 その後も週に3日ほどのペースでシフト
を組み、ヤマパンでのバイトを続けた。
 バイトが扱うのは、できあがった品物を
梱包したり、最後の手をくわえたりと、調
理に直接携わるというよりは、完成した商品に伴う業務が多い。
 なので仕事自体の種類は変われど、たい
ていは、移動させるか、何かをのせるか、この2つに絞られる。
 そんな単純作業に慣れるうち、季節は移
り変わり、夏に。お盆の季節が近づくにつ
れて「和菓子課」の仕事が増えてきた。ヤ
マパンバイトの年に2回の繁忙期の一つがこのお盆だ。
 私が携わったのは、みたらし団子の製造だった。
 いつものように社員から簡単な説明を受ける。
「じゃあ、この団子の焦げ目が上にくるようにひっくり返してね」
 コンビニのレジ横に並ぶ、パックの団子
を思い出してほしい。みたらし団子には必
ず黒い焦げ目がついている。あの状態にするわけだ。
 つまり、『焦げ目が上にくるように団子をひっくり返す』
のが今日のお仕事だ。
レーンの上を流れてくる串刺しの団子を、
クルっとひっくり返す。串の部分を持って
クルっ。いつものように猿でもできそうな作業である。
 両手の人差し指と親指で串をつまんで、
クルっ、クルっ。数をこなすうちに、指の
付け根が猛烈に凝ってきた…。指がつってしまうのだ。

このシールを盗んだら何枚皿をもらえるんだろな~
もう1つの繁忙期、クリスマスは、コン
ビニで売られる小さいサイズのケーキはも
ちろん、ホールケーキも製造するので、短期バイトをかなりの人数採用している。
若い高校生が友達同士でやって来たりするおかげで、いつもはやけに静かな食堂が、
キャッキャと賑やかになる。
 ヤマパンで働いていると、短期バイトが
増えるたびに、新しい季節の訪れを感じる。
お盆やクリスマスの訪れはこうやって知るのだ。
 この繁忙期に私が任されたのは、
『イチゴのヘタを取る』
 というシンプルなものだった。
 うず高く積まれた大量のイチゴを左手で
一つつまみ、包丁でヘタを切り取る。食べ
れるとこを切りすぎないように、スパっと。
ペースは1つあたり0・5秒だ。
 熟しすぎたり、形が悪かったりして、ケ
ーキに使えないイチゴは、別に仕分けする
必要があるので、その見極めも重要だった。
 これらケーキに使えない不揃いなイチゴ
たちは、イチゴ大福などの、形の良し悪し
が関係ない場所へと転用されていた。
 このイチゴのヘタを取るのは楽しい仕事
だった。一つ一つ違う形のイチゴには、攻
略のしがいがあったのだ。どう持てばヘタ
を切りやすいか? 包丁の角度は? などなど。
 バイトをやめて数年経った今でも、このときの包丁さばきを身体が覚えていて、瞬
時にイチゴのヘタを切り落とせる。自慢にもならないけど。
 他にも好きだった仕事は、
『パッケージに「春のパン祭り」のシールを貼る』
 という作業だ。
 ご存じのパン祭りのシールも、実は手作
業でバイトたちがせっせと貼っている。何
十枚というシールの束を持っての貼り付け
は、不思議と気分がよかった。
 このシールを盗んだら何枚皿をもらえる
んだろな~、というしょうもない妄想もできるし。
 実際、セキュリティはガバガバだったの
で、バイトの中には盗んでる人もいたかも
しれない。私はやんなかったけど。
★紹介できなかった仕事もいくつかあるが、
基本的な動作はほとんどどれも一緒。超単
純作業ばかりだ。
 1人で黙々と作業するのが好きな人には、
向いてるんじゃないかな。私だって3年も
続いたんだから。

ジモティーにあった手元募集・手元作業員の仕事ってどんな内容?

今月も新たな仕事に挑戦するため、ネットの求人サイトを開いた。

今回はいかがわしい短期バイト募集が多い「ジモティー」で、探すことに。これまでもお仕事ルポでは何度かお世話になっているサイトだ。
エリアを関東にして、アルバイトのタグをチェックして検索。飲食系のバイトが多い中で目に付いたのが「手元募集」という文言だ。
手元ってなんだろう?ネットで調べてみたところ、要するに土木や建築作業で足りなく
なった人手を補うための補助バイトってことらしい。

しかも、仕事の内容は、あくまでも補助なので楽な仕事が多いそうな。必要なときだけ呼び出されるとのこと。
よし、これに応募してみよう。
楽に稼げたら、副業にでもしようかな。いくつもある手元求人の中から、2泊3日の解体業者の手元に応募することに決めた。短期でガッツリ稼ぎたいところだ。
「はじめまして。手元のアルバイトに応募したいのですが、まだ募集しているでしょうか?」

メッセージを送信して、数十秒で相手から返信がきた。
「はい。こちらの番号にお電話ください。090 ─××××」
返信が早くて助かる。すぐ電話してみることに。
プルルルル。
「はい。もしもし、どちら様?」
「もしもし、先ほどジモティーで応募した野村と申します。アルバイトの応募なんですけど…」
「ああ、はい。それでは、このまま電話面接に移らせていただきます。簡単な自己紹介をお願いします」

年齢や身長体重を教えたところ、一度、先方の事務所に確認してから折り返し連絡をすると言われて、電話を切られた。
どうやら、この人は人材あっせんの業者のようで、解体業者ではないようだ。
 

翌日、解体業者を名乗る人物から連絡があり、無事に採用が決定した。明日から直接事務所に行けば仕事にありつけるらしい。
つーか、仕事のあっせんってこんなテキトーに進んでいいのだろうか。俺としちゃ助かるけど、経験の有無すら聞かれないまま採用って、どーなのよ。
 

翌日、神奈川県平塚市にある事務所に向かった。
ノックして中に入る。
「失礼しまーす」
奥の方からスキンヘッドの恰幅のいいオッサンが現れた。
「昨日お電話いただいた野村です。よろしくお願いします」
「おお、よく来たね。話は聞いてるよ。それじゃあ仕事の説明をするから座ってくれる?」

応接間のソファに腰かけて話を聞く。
「えーっとね。うちは2泊3日で働いて給料は3万円だから、結構もらえるでしょ?」
ただし、寮費1泊3千円が給料から天引きされ、おれが3日でもらえるのは2万4千円とのこと。
素性不明の男を雇ってくれた上に、この金額をくれるんだから、良心的といえるのかもしれない。
「じゃあ、短い間だけど、よろしくお願いしますね」
この会社から支給されたのは作業着と軍手1組だけだ。
トントン拍子で話が進んでゆく。
契約書とか、保険とか何も聞いてないけど大丈夫かよ。
「あのお、もし、怪我した場合とかってどうなるんでしょうか?」
「いやあ、怪我はコワイからね。十分に気を付けてください」
「いや、そうじゃなくて、保険とかって…」
「まあ、その辺は気を付けてもらうしかないですねえ…」
 

うやむやにされてしまった。期待はしない方がよさそうだ。手元はあくまでも臨時の使い捨て要員なのだろう。
「それじゃあ、寮に案内するのでついてきてください」
事務所から歩くこと15分。寮として紹介されたボロアパートに到着した。
部屋の中は畳敷きで、4畳半と狭いが、ユニットバスがついているので、それほど悪くはなさそうだ。ただ、置いてあるテレビは、ぶっ壊れていて見れなかった。捨てちまえよ。
「明日の朝7時になったらアパートの前に迎えの車がくるので、それに乗ってください」
翌日の朝から仕事が始まるので、この日は近所のコンビニでメシを買ってきて、早めに寝ることにした。
「ニホンジン何を考えてるかワカラナイ」
 

さて、ようやく仕事当日だ。朝、アパートの前で迎えの車を待っていたら、1人の作業着姿のオッチャンが現れた。
60代後半だろうか。
どうやら、同じ現場に行く人っぽいし、声を掛けてみよう。
「おはようございます。今日から入りました野村です。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
「もう、この仕事は長いんですか?」
「はい。そうですね。結構長く働いてます」
 

いままでいくつもの肉体労働バイトをしてきたけど、初対面で敬語を使ってくる人に初めて会ったかもしれない。ちょっとうれしい。
迎えが来るまで、このオッチャンとお話でもして時間をつぶすことにしよう。

「手元をされてるんですよね。いつごろから働いてらっしゃるんですか?」
「はい手元で。もう、5年くらいです。仕事を退職してから始めました」
彼の名前は佐々木さん。年齢は67 才。年金をもらっているが、優雅な老後とはいかず、足りない金をここで稼いでいるとのこと。
「それに孫にもプレゼントとかを買ってやりたいでしょ」
お盆と正月に孫の顔を見るのが唯一の楽しみなんだとか。
「でも、パチンコをやっているので、全然たまらないですね」
しゃべり方からして不器用そうな人だけど、朴訥としていて、人柄が良さそうだ。
「さすがに毎日は体がもたないので、月に何回か、こうして短期で仕事をしています」
なんかリアルな日本社会の現実って感じだな。
そんな話をしていたら、バンが到着。
中に入ると、すでに車内には、ほかの労働者の姿が。隣には東南アジア系の若者が座っていた。この人にも話しかけてみよう。
「今日から入りました野村といいます。よろしくお願いします」
「ハイ。ヨロシク。グエンです」
「どうしてここで働いてるんですか?」
「学校を休んでるから…。仕方ないです」
彼のつたない日本語をまとめるとこういうことになるらしい。
 

彼がベトナムから来日したのは3年前。高田馬場にある日本語学校に通っていたが、現在は休学しながら、学費を貯めている状況らしい。
大変だなあ。それにしても、なんで学費が足らなくなったんだろう。
「予定とアワなくなった。タリナイ」
 

本来なら、来日する前に用意していたお金とアルバイトで賄う予定だったそうだが、来日してから学校の寮費が変更になり、授業後のアルバイトだけでは足りなくなったそう。
そのため、現在は休学しながら、ある程度の学費をためている最中らしい。早く日本語学校を卒業して、介護士になるのが目標とのことだ。
最近は、その日本語学校に残してきた彼女とスカイプ通話をするのが毎日の楽しみだという。
「その彼女には会いに行ったりしないんですか?」
「ソッチも忙しい。コンビニ大変っていってた」
 

彼女の方も働きながらなんとか学費を工面するのに苦労しているのだ。話を聞いてるだけで、上手くいってほしくなる。
まさか日本にまできて、ベトナムでやってたのと同じような仕事をするとは思いもしなかったという彼。
「ニホンジン何考えてるかワカラナイ。本当に怒ってるか、ふざけてるかもわからない」
本気で怒られてるときと、ふざけてダメ出しをされたときの違いがわかりにくいらしい。確かにそういう微妙なニュアンスって母国語じゃないとわからないものかも。
そんなベトナム人の苦悩を聞いていたら、30分ほどで現場に到着した。

積んだガレキは100キロ以上
今回の仕事は木造アパートの解体とのこと。ただし、あらかじめ重機で大まかな解体処理は終わっているようだ。
俺とグエン君、佐々木さんの3名が手元としての作業補助となる。
重機で壊した木材やコンクリを移動させるのが仕事だ。
 

重機を使う作業員たちが大きなコンクリの「基礎」を細かくしたら、それをトラックの荷台に積み込んだり、運搬しなくてはいけない。なんかすっげえ大変そうなんだけど。簡単な点呼の後、みなが自然と作業を始めてしまったので、佐々木さんに声を掛ける。
「すみません。なにをすればいいんでしょうか?」
「はいはい。まずは一緒にここにあるガラを運びましょう」 

ガラというのは、アパートの土台に使われていた基礎のコンクリのことだ。これを回収用のトラックまで運ぶのだ。
「じゃあ、野村くんはネコをもってきてね」
 猫? なんじゃそりゃ?
「あそこにあるやつだよ」
目線の先には、工事現場でよく見かける一輪車があった。ああ、あれをネコっていうのか。
「わかりました!」
急いでネコを持ってくる。
「ここにガラを入れて、あそこのトラックまで持っていってね」
そう言い残して佐々木さんはどこかに行ってしまった。
よし、いっちょやってやるか。
コンクリの山から、一つのガラを手に取る。ウゲ! メチャクチャ重たいよこれ。
たぶん一つで20キロくらいあるんじゃないか? 持ち上げるだけでも腰を壊しそうだ。
遠くの方では佐々木さんも俺と同じような仕事をしているが、楽々と持ち上げている。すごい力だなあ。
一心不乱にコンクリを持ち上げて、一輪車に詰め込む。なんとか、満杯になったので、いざ、トラックへ。
ただ、この一輪車の操縦が難しい。たぶん、積んだガレキは100キロ以上の重量があるので、重心が安定しないのだ。もしかしたら、入れすぎだったかも。
しかも、地面は土なので段差があって、揺れる揺れる。こぼしそうだよ。
なんとか体勢をキープしたままトラックに到着し、ズザーっと一気に流し込む。ふう。これは中々地道な作業だ。
このままのやり方では、すべてのガラをトラックに移動させるまでに、何往復もしなくちゃいけなくなるので、一気に大量のガラを一輪車に乗せることにした。
重たいのを我慢して、隙間なくコンクリを積んでいく。山盛りにガラを積むことができた。よし、これなら効率的だ。よっこいしょっと。ドスン。ドスン。うわっ! 移動する途中で一輪車からガラを落としてしまった。
その様子を見かねた佐々木さんが駆け寄ってきてくれた。
「野村くん大丈夫?」
「はい。すみません」
「焦らなくていいから、怪我しないように注意してね」
確かに、これは気を付けなくっちゃ。
「それと、1度に何個も運ぼうとすると落として2度手間になるから、注意した方がいいよ」
そのとおりだ。何度も積みなおしてたら、体力の消耗も激しくなっちまう。
その後は佐々木さんのアドバイスどおりに何度も往復を続けた。
これはかなりシンドイ作業だ。腰が痛いよお。
「ま、やめる奴がほとんどなんだけどな」
一通りガラの回収が終わったので、佐々木さんから小休憩の許可をもらった。はあ、疲れた。
ふと、現場の方に目をやると、他の作業員たちはユンボで土の中にあるバカデカい基礎を掘り返していた。すげえ。あんなデカいコンクリがアパートの下には埋まってるのか。ちょっと、びっくりだ。
ユンボで掘り返した基礎を佐々木さんたちは、ハンドブレーカーと呼ばれる小型の掘削機で細かくしている。この音がまあうるさい。ガガガガと小刻みになって耳をつんざかれる。パチンコ屋くらいの轟音だ。耳栓が欲しい。
小休憩を済ませて、またもや同じ仕事に戻る。
なんとなく要領がつかめてきた。
どれくらいの量であれば一輪車をふらつかせずに移動できるか。体のどこに力をいれれば楽に持ち上げられるか、なんとなくつかめてきたのだ。俺の場合、腕の力は極力使わずに、太ももに力を入れれば、ガラが持ちやすくなるみたいだ。
とりあえず、目に付くガラがなくなったところで、佐々木さんから声がかかった。
「野村くん! 次はこの木片を移動させて」
運ぶものが変わっただけで、やることは一緒だ。木造建築なので木のゴミも多い。
この木片のことは「シバ」というらしい。こういう用語ってよくわからんな。
さっきまでのコンクリのガラに比べて軽いので、持ち運ぶのは楽になった。もし、この建物が木造アパートじゃなくて、鉄骨のアパートだったら、作業はめちゃくちゃ大変になるだろうな。考えるだけで腰が痛くなりそうだ。
ひとまずガラとシバの移動は終了。ここで昼休憩をもらうことができた。
コインパーキングに停めてあるバンに戻って、コンビニで買ってあった昼飯を食う。はあ、疲れたな。
近くで作業員たちがメシを食っていたので、一人に声をかけてみた。この人たちは重機を操縦したり、トラックを運転したりする、俺のような手元の上司にあたるポジションだ。たぶん年齢は30才くらいだろう。
「お疲れ様です。今日、はじめて作業したんですけど、かなり大変ですね」
飯を食う手を止めてコチラを見てきた。いかにもヤンキーあがりって風貌だ。ピアスに極細マユ毛だし。
「おう、お疲れさん。手元は大変だよな」
「はい。初めてだったんで疲れましたよ」
「はは、まあ、誰でも最初はそうだよ。重機の免許とったら楽になるよ」
 

彼も最初は手元として働きながら、重機の免許をとって今のポジションまで昇格したらしい。やっぱり資格って大事だな。
「でもよ、手元で我慢すれば、たいていの仕事は楽だと思えるようになるぞ」
「そういうもんですか」
「ま、その前にやめる奴がほとんどなんだけどな」
そりゃそうだ。俺だって今すぐにでも逃げ出したいもん。

あっという間に30分の休憩は終了。佐々木さんがやってきた。
「野村くん、はい、これ使って」
 渡されたのシャベルだ。これをいったいどうしろと。
「重機で掘り返せなかった細かいガラを取り出すんだよ」
 はあ、またガラですか…。
 佐々木さんはハンドブレーカーを持って、俺はその横でシャベルで土を掘り返す。地中に埋まったガラが見えたら、横にいる佐々木さんがぶっ壊していくわけだ。
 シャベルを力いっぱい地中に突っ込み、基礎の周りの土をどかす。
「これでいいですか?」
「はい。大丈夫ですよー」
 ズガガガガとハンドブレカーで、基礎を破壊していく。おお、間近で見ると迫力がスゴイぞ。いとも簡単にコンクリが割れていく。
「野村君もやってみる?」
 いいんですか? それではぜひ。ブレーカーを受け取る。おお、結構重たいんだな。コンクリに先端をあてがって、持ち手にあるスイッチをオン。ガガガガ! うおー、ものすごい振動が伝わってくる! なんとなく爽快かも。
何分か続けていたら、腕の感覚がなくなってきた。振動で握力が弱ってきてるみたい。
楽そうに見えたけど、これはこれで重労働だ。振動の間もズレないように抑えていなくちゃいけないので、上手に力をかける必要があるのだ。
それに、粉塵の量が尋常じゃない。コンクリから上がった煙が喉から肺に入ってくるので、思わずゲホゲホとむせ返る。
本来は防塵のマスクをつけてやるもんだと思うけど、佐々木さんは何もつけずにやってるし。身体壊しちゃうぞ。
数分やったところで交代した。
ペースが遅すぎるので、俺がやってちゃ、何カ月もかかっちまいそうだ。
それに、この機材は1台30万以上するとのことで、本来は俺みたいな素人に触らせてはいけないらしい。
その後も、俺と佐々木さんのペアでシャベルで基礎を出して、壊すという作業を続けた。
この上にアパートが建っていただけあって土が重たい。上からギュッと圧縮されているので、掘り返すのも一苦労だ。
2時間ほどかけて、ようやく終わった。近くでブレーカーの轟音をずっと聞いていたので耳がキーンとしている。
この耳鳴り治るのかなあ。佐々木さんはといえば、ちゃっかり耳栓をしてるのでヘッチャラみたいだ。土の掘り返しが終われば、いまぶっ壊した基礎を、先ほどと同じように一輪車でトラックに移動させていく。はあ、シンドイ。
次第に腰から背中にかけての筋肉が痛くなってきた。このままじゃスジを痛めてしまいそうだ。はあ、この世からコンクリートがなくなってくれればいいのに。
まだ、季節が寒かったからいいものの、これが夏だったらマジで死んじまうぞ。
パチンコの話題があれば現場の人と仲良くなれる
気が付けば時刻は15時になっていた。あと2時間ほどで作業は終了だ。
しかし、相変わらず俺の仕事は重たーいガラの運搬だ。作業にも慣れてきたので、佐々木さんと話でもしながらやるとしよう。
「やっぱり、佐々木さんは作業のスピードがちがいますね。筋肉がすごいんじゃないですか?」
「はは、いやあ、私なんて全くですよ。もう全身ボロボロですから」
 へえ、そうは見えないけど。全身ピンピンしてるじゃん。
「いやいや、経験でカバーしてるだけで、体力はもう残ってませんよ」
そうはいっても、60代後半でこんなキツイ仕事をやってるってだけで尊敬に値するぞ、マジで。
この佐々木さん、仕事が終わったらパチンコ屋に行くのが日課で、給料のほとんどを新台を打つのに使っているんだと。
「いま、AKB48の新台が出てて楽しみなんですよ。今日は打ちに行こうと思っててね」
ま、パチンコでも行って憂さ晴らししなくちゃやってられない仕事ってのはわかる気もするけど。
彼によれば、肉体労働系の仕事中の話題は9割がパチンコだそう。
全国の都道府県全てにパチンコ台があるので、どこの現場に行っても、パチンコの話題さえ持って行けば現場の人と仲良くなれるらしい。
そんなパチトークをしながら作業をしていると、気が付けば就業まで30分ほどの時間になっていた。
もう、全身、特に腰はボロボロだ。
ちょっとかがむだけで、ピキっという鋭い痛みが襲ってくるのだ。
目立つガラをトラックに運び終えたところで、昼休憩のときに話しかけたヤンキー作業員が声を掛けてきた。
「おう、新人、ツラそうだけど、大丈夫か?」
「もう、ほとんど限界ですね」
「そうか、そうか、じゃあ運搬はいいからこっちにきて、交通整理をしてくれるか?」

やった! ようやくガラ運びから解放される。新人だからってことで、気を使ってくれたのかも。
俺が必死こいて運んだガラを乗せたトラックと、重機を乗せたトラックの2台が出てくるときの誘導を任せられた。
道が狭いので他の車が通らないように止めておいてくれというのだ。俺やり方がわからないんだけど大丈夫かなあ。
「ま、車は来ねえだろうから、自転車とか通行人に注意してくれればいいから」
彼から赤く光る誘導棒を受け取って、道路に出る。
そこに1台の自転車がやってきた。おっしゃ、俺の出番だ。
危ないことを知らせるために、誘導棒を大きく回す。さっきまでガラを運んでたので、腕が頭の上まであがらないぞ。イテテテ。
「すみませーん。トラックが出てくるので少々お待ちください!」
ママチャリに乗った主婦にイヤな顔をされながら、交通誘導は終了した。車が来なくてよかった。現場に戻ると、数名の作業員を残して解散になっていた。
はあー。やっと終わったみたいだ。過去やってきた仕事で一番疲れた。もう、ムリです。アパートに着くやいなや、佐々木さんはパチンコ屋に行くと言って去っていった。
はあ、もう続けられそうにない。解体の手元は日本で一番ツライ仕事だ。この仕事に従事してるってだけで、俺はその人を尊敬します。
アパートの部屋に戻り、荷物をまとめて部屋を出た。もう、やめます。

キセル不正乗車の発見にクレーム対応・駅員の仕事も大変だ

鉄道会社はまずツブれる心配もないし、年功序列も結構。とに かくマトモな人になれれば御の字だ。果たして、私は競争率約 10倍の難関を突破して見事合格。

入社後2カ月間は研修専用の教習所で1日中ひたすら勉強。業務に必要な知識を叩き込まれた。 とはいえ、座っているだけでサラリーマンの平均月収くらいもらえるのだから、バイトとは雲泥の差だ。

その後、沿線の駅に配属されて1週間の実地研修。そこで私は、 厳しい現実を見ることになる。 配属先は、他線と交差する結構なターミナル駅だった。先輩の指導に付き添ってもらい24時間フッ通しで勤務するのだが、掃除や改札といった当たり前の業務はもちろん、とにかく接客がキツイ。 毎日何千、何万人もの人と接する 分、クレームの数がハンパじゃないのだ。 

「お釣りが出ない」 「電車が遅れてるじゃないかー」

まあこんなのはまだいい方で、 「なんでトイレがこっちのホームにないんだ」なんて怒鳴られても、 ただただ困るばかり。

また、当時は有人改札だったた め、入口の改札でパチパチ切って いると、3分に一度はそこから逆流して出よーっとする客がいた。

こういうときは一応、「お客さん、出口です」

なんて優しくするのだが、腹いせに切符の角で手を力リカリ突っ付いてく るヤツもいる始末

切符用のハサミで何度耳をパンチングしてやりたくなくなったか。 が、怒れば終わり。お客様第一主義である私鉄では、駅員は絶対に強く出られないのだ。

まったく、なんでここまで頭下げなきゃいげないんだ

私は、わ ずか数日の間で、かつて経験したことのない過剰なストレスに苛まれてしまった。 
新人駅員が改札の仕事に入り、 
最初に遭遇する犯罪それは、キセルだ。バッタバッタと不正乗車の犯人を捕まえられれば、さぞや快だろ-

ま、定期なら不正はまだ見つけやすい。区間や有効期限デカと書かれてあるし、次第にそれ を見分ける動体視カも身に付いて くる。たまに、使用済みの定期を かき集めてそれぞれの数字を都合 良く組みあわせて薄いブルーの定期入れで抜けていくような強者も いるが、全体数の中ではごくわずかだ。

問題は切符の方である。ご存じ のように有人改札の場合、客は使い終わった切符を駅の手元の箱に置いて抜けていく。が、特にラッシュ時の場ここで不正を見 つけるのは至難のワザだ。

証拠となるような防犯カメラもないし、キセルするようなヤツはたとえ指摘したところで 「やってねえ」と逆ギレすること も多い。追及して間違いだったら トンでもないことになるため、結局は見逃してしまいがちだ。 それでも、中には親の仇を討つ ように躍起になっでいる同僚も少なくない。

というのキセルが発覚、通常運賃の3倍嬢額を請求できる決まりになっており、発見した駅員に徴収額のー割が報奨 金として支払われるからだ。 この制度を利用して儲けよーっと 思ったら、やはり定期券に限るだ ろう。発覚時には不正乗車した日数分が丸々加算されるので、長くキセルしているほぐその分額が膨らむ。

いちばん有効なのは、一度不正を見つけた定期券の客をワザと見逃し、少し日数を稼いでおいて御用という戦法。

私も一 度だけ試したことがあるが、結局 は、名人と呼ばれている先輩に途中で横取りされてしまった。 

キセル不正乗車の発見にクレーム対応・駅員の仕事も大変だ

鉄道会社はまずツブれる心配もないし、年功序列も結構。とに かくマトモな人になれれば御の字だ。果たして、私は競争率約 10倍の難関を突破して見事合格。

入社後2カ月間は研修専用の教習所で1日中ひたすら勉強。業務に必要な知識を叩き込まれた。 とはいえ、座っているだけでサラリーマンの平均月収くらいもらえるのだから、バイトとは雲泥の差だ。

その後、沿線の駅に配属されて1週間の実地研修。そこで私は、 厳しい現実を見ることになる。 配属先は、他線と交差する結構なターミナル駅だった。先輩の指導に付き添ってもらい24時間フッ通しで勤務するのだが、掃除や改札といった当たり前の業務はもちろん、とにかく接客がキツイ。 毎日何千、何万人もの人と接する 分、クレームの数がハンパじゃないのだ。 

「お釣りが出ない」 「電車が遅れてるじゃないかー」

まあこんなのはまだいい方で、 「なんでトイレがこっちのホームにないんだ」なんて怒鳴られても、 ただただ困るばかり。

また、当時は有人改札だったた め、入口の改札でパチパチ切って いると、3分に一度はそこから逆流して出よーっとする客がいた。

こういうときは一応、「お客さん、出口です」

なんて優しくするのだが、腹いせに切符の角で手を力リカリ突っ付いてく るヤツもいる始末

切符用のハサミで何度耳をパンチングしてやりたくなくなったか。 が、怒れば終わり。お客様第一主義である私鉄では、駅員は絶対に強く出られないのだ。

まったく、なんでここまで頭下げなきゃいげないんだ

私は、わ ずか数日の間で、かつて経験したことのない過剰なストレスに苛まれてしまった。 
新人駅員が改札の仕事に入り、 
最初に遭遇する犯罪それは、キセルだ。バッタバッタと不正乗車の犯人を捕まえられれば、さぞや快だろ-

ま、定期なら不正はまだ見つけやすい。区間や有効期限デカと書かれてあるし、次第にそれ を見分ける動体視カも身に付いて くる。たまに、使用済みの定期を かき集めてそれぞれの数字を都合 良く組みあわせて薄いブルーの定期入れで抜けていくような強者も いるが、全体数の中ではごくわずかだ。

問題は切符の方である。ご存じ のように有人改札の場合、客は使い終わった切符を駅の手元の箱に置いて抜けていく。が、特にラッシュ時の場ここで不正を見 つけるのは至難のワザだ。

証拠となるような防犯カメラもないし、キセルするようなヤツはたとえ指摘したところで 「やってねえ」と逆ギレすること も多い。追及して間違いだったら トンでもないことになるため、結局は見逃してしまいがちだ。 それでも、中には親の仇を討つ ように躍起になっでいる同僚も少なくない。

というのキセルが発覚、通常運賃の3倍嬢額を請求できる決まりになっており、発見した駅員に徴収額のー割が報奨 金として支払われるからだ。 この制度を利用して儲けよーっと 思ったら、やはり定期券に限るだ ろう。発覚時には不正乗車した日数分が丸々加算されるので、長くキセルしているほぐその分額が膨らむ。

いちばん有効なのは、一度不正を見つけた定期券の客をワザと見逃し、少し日数を稼いでおいて御用という戦法。

私も一 度だけ試したことがあるが、結局 は、名人と呼ばれている先輩に途中で横取りされてしまった。