いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

タトゥーアーティスト入れ墨を彫る彫師の仕事

刺青入れたのは単純な理由です
よ。ただカッコいいから。
オレ、高校なんてロクに行かな
くてバイクに乗ってて、集まって
くる先輩の中に入れてる人がいた
んです。肩から腕にかけて龍が彫
ってあってね。で、オレも入れよ
うかなと。
隣町にタトゥースタジオがあっ
たからそこで腕に小さい牡丹を入
れたのが最初。電動針で釦分ぐら
いだったかな。痛かったけど、我
慢できないほどじゃなかった。
一度入れると、もっともつとつてなるんですよ。反対の腕にはも
う少し大きい龍を彫って、じゃあ
肩にも入れようかと。
で、いろいろな刺青が載ってる
本とかも見るわけですよ、どんな
デザインがいいか。刺青ってのは
雑誌で紹介される作品を見て彫師
に頼むってのが普通だから、その
筋の人がよく読んでる実話系の週
刊誌を買って研究しました。
そしたら雑誌に、ある彫師が特
集されてたんです。日本でトップ
レベルの人で、海外でも非常に人
気があると。もう、その人が彫っ
た作品を見てぶつ飛びましたね。
他の人のと圧倒的にインパクトが
違うんですよ。
オレ、こう見えても小さいとき
から絵が好きで画家になりたいと
思ってたせいか、その人の互首云集
なんかを集めてるうちに彫師にな
ろうって決意しちゃった。
ちょうど汀で、将来のことを考
えはじめたころだったんですよ。
〃族″をやってる先輩にはヤクザ
の事務所に出入りして、そのまま
組員になる人もいたけどオレはヤ
クザになりたいとは思わなかった。
で、すぐにその彫師の弟子にし
てもらおうと思って家を飛び出し
その人のとこに行ったんです。なかなかウンと言ってくれなかった
けど、オレはこれしかないって思
い詰めてたから、スタジオの近く
に安いアパート借りてOKが出る
まで1カ月ぐらい通いましたよ。
彫師は徒弟制度で雑用をしなが
ら師匠のワザを盗んでいく職人の
世界なんです。昔ながらの住み込
み修行をとってるとこも僅かなが
らあるし。オレの師匠は弟子を近
くのアパートに住まわせて通わせ
てましたけど。
新弟子は、まず掃除からです。
お客さんも汚いところで裸になる
のは嫌ですし、仕事捨場が汚れてた
ら「こいつら見えないところじゃ
手抜くな」って見られちゃう。
だからキッチリ掃除して、後は
客の接待の合間に師匠が彫ってる
のを見て、下絵を描く練習。次は
簡単なワンポイントを彫らせても
らい、それが認められれば筋彫り、
色入れと徐々に重要なところを任
せられる。
うちの師匠は本当に日本を代表
するような人で、その分、厳しか
ったんですよ。でもオレ、根が真
面目だからガムシャラでした。師
匠の下絵や本なんかを見て自分な
りにアレンジしたデザインを考え
たり師匠や先輩たちが彫ってるのを見ながら彫り方とか覚えて。
彼女に協力してもらって彫る練
習しましたね。田舎から一緒に出
てきた彼女がいたんすけど、最初
にそのコの背中に菩薩様を彫った
んですよ。。昔は
親からもらった体を汚すとか言い
ましたけどいまはピアスとかも流
行ってるでしよ。オレもそうでし
たけど若いヤシの中にはただ好き
だから、きれいだからって刺青入
れる連中も結構いるんですよ。ミ
ュージシャンとかアーティスト系
に多いですけど、ホント普通の人
がファッションとして彫る時代な
んですよ。
実は彫師って国家資格もないし
誰の許可がいるわけでもないから
「オレは彫師だ」って自分で言え
ば、誰だってなれちゃうんですよ。
最近は電動針だってなんだって
そこいらで簡単に買えるし、雑誌
なんかには彫り方も出てるしね。
実際、自分で彫ってる人ってかな
り多いんです。
全国で「タトゥーパーティ」っ
て呼ばれるイベントが頻繁に行わ
れてて、ライブハウスみたいなと
こで彫師が来た客に簡単な刺青を
彫ったりするんですけど、そこに
集まってくる人たちの中には自分
で彫ったって見せにくる人もいま
すから。
じゃあ、そういう素人とプロの
彫師は何が違うかつていえば、客
がつくかどうかだけ。色の入れ方とかそういう技術も含めてですが、
どれだけ人を引きつけられる作品
ができるかなんです。
いま、彫師は全国にモノ凄い数
いますよ。

なんちやっても入れれば何百人といるんじゃないです
か。ほとんどは海外から入ってき
た洋彫りIタトゥーで日本の伝統
的な刺青じゃないんですけどね。
せいぜい腕にアニメのキャラク
ーを彫ったり胸にバラを入れたり
で全身彫りができるわけじゃない。
いや、海外の技術だって本格的
にとり組めば高度だし別に否定す
る気もないですけど、オレは日本
の伝統を守りながら刺青をやりた
いんです。
自分のオリジナルの登り龍が完
成したときなんか、我ながらほれ
ぼれしちゃいますもん。そんなの
マンガチックなタトゥーじゃ味わ
えない気持ちでしよ。
刺青ってのは何を彫っちゃいけ
ないって決まりはないけど、元々
粋を大事にしている人たちが
安藤広重葛飾北斎の錦絵なんか
を元に彫ってたもの。だから熊や
蛙より龍とか鯉だし、般若とか花
魁、弥勒菩薩とかを題材に取って
る。そういう世界を自分なりに極
めたいんですよね。刺青は、まずデザイン決めから
始まる。ワンポイントなら出来合
いのものでもいいが、腕や背中に
彫り物を入れるとなったら、客の
希望の柄や色を聞いて彫師がオリジナルを考える。
それを上半身裸の客の体に入れ
る。といっても直接客の体に拙い
ていくのではなく、転写ペンで薄
い紙に拙いた下絵を客の体に貼り
付け、霧吹きで水を噴射してムラ
がないよう写すのだ。
ここまで準備が整ったらいよい
よ彫り始める。最初は絵に沿って
鵠で筋彫りを行い、スカシを入れ、
徐々に時間をかけて色を重ねてい
く。昔は墨と朱の2色だったが、
いまは紫やピンク、パステルカラ
ーまである。
針は殺菌ボックスで消毒、丸い
縫い針のようなものや小型の彫刻
刀のように平らなものなどを、場
所や図柄に応じて使い分けていく。
筋彫りでは、細い針が伽本か埴な
った電動針を使っことも多い。
血止めのワセリンを皮膚の表面
に塗り、墨を付けた針で彫ってい
く様はまさに真剣勝負だ。
刺青ってどのぐらいの深さに彫
るか知ってます7.いちばん深い
ところで1.2ミリ。薄いところ
は0.8ミリなんですよ。
皮層の下までいっちゃうと医療
免許が必要になってくるから、表
面だけに着色してるわけ。
針で傷つけるんだから血は出る
し痛いわけですよ。それこそ下手
な彫師にかかったら化膿したりか
さぶたになったりする。
いや、いくらウマイ彫師でも痛
いですよ。だいたいどのスタジオ
も予約制で1回に1時間彫るんだ
けど、その間、ずっと体を切り刻
まれるんですから。よく「切れな
いナイフで切り裂いてるよう」な
んて言うけど、その痛みは半端じ
ゃない。
だから中にはいますよ、耐えら
れないヤシが。入ってきたときは、
「おI、こんなケチなとこでやる
のかい」みたいに威張ってたのに、
いざ彫り始めると、5分もしない
うちに「待ってくれ」って泣きを
入れてくる。もういいからって金
を置いて帰っちゃう人もいた。
あと困るのは動く人。痛くて体
が小刻みに動いちゃうんですよ。
組の人間だったらそういうとき
は事務所に電話しちゃいますね。
ああいう世界の人間は上の人が来
て見てるとなれば耐えざるを得な
いですからね。不思議なもんで、
兄貴分が「彫りづらいからしっか
りしろ」なんて言いながら見てる
と動かなくなる。
それでもダメで、若い衆を呼んで手足を押さえつけて、ってとき
もありますよ。
若いヤシで痛み止めのつもりか、
シンナーでうりってきたのもいま
したね。「クスリやってるヤシに
は入れないから帰れ」って怒った
らそいつはあとで素面のときに来
ましたけどね。
皮層を傷つけると毛細血管から
血が出ますよね。それにクスリな
んかの不純物が混じってるといい
色が出ないんですよ。だからお酒
を飲んでてもダメ。素面でじっと
痛みに耐えないと刺青は入れられ
ないんです。実際のところ、背中なんかに刺
青してても完壁に色を入れて仕上
がってる人って少ないですよ。
刺青って今は時間制で、1時間
1万5千円が相場。出来上がるま
でには少なくとも釦〜即時間かか
るから、まず金がなくちゃ彫れな
い。もちろん忍耐力もいる。そし
ていちばん問題は時間なんですよ。
金と忍耐はどうなっても、ヤク
ザもんだったら組の仕事だ義理だ
って定期的に彫りに通えないんで
すよ。筋だけ彫って刑務所行って、出
てきてまた続きを彫ってって、そ
んなんだから。で、意外と完成し
てるのは女の人が多い。
自分が刺青入れてると自分の女
にも入れさせたいって思うのか連
れてきたりするけど、女性の方が
我慢強いし時間も比較的取れるか
ら結局、先に仕上がる。
笑ったのは、羽衣天女を彫って
くれって来たカップル。同じデザ
インで、横に並ぶと2人の菩薩の
目線が合うように彫ってくれって。
ふざけんなと思ったけど、彫り
ましたよ。いつも一緒に来て、お
互いが彫り上がるまで待ってた。
お客様は神峰様ですから来てくれる
だけ有り難いですけど、本音言え
ばそんなの彫りたくないですよ。
だってそんなの漫画でしよ。
そういうとみんな思うでしよ。
「今は刺青入れるヤクザは少ない
んだからそんな大層なこと言って
らんないんじゃないの」って。
確かにそうなんです。伝統的な
和彫りを大事にしたいなんて言っ
ても、全身に彫物する人は少なく
なってワンポイントのタトゥーの
方が人気ですから。
でも彫師の心情としては自分の
作品を作りたいんですよ。都合のいいことに、ヤクザも刺青を入れ
たがる人たちはまだいますしね。
一般の人は刺青なんて見たこと
ないですよね。たまたま銭湯で見
かけたことがあるとか、都会の人
だったらサウナに行ったら集団で
いたとかね。
なんでヤクザがああいうとこに行きたがるかわかります?見せ
たいからなんですよ、刺青を。大
勢いるところで見せっこしたいわ
け。銭湯とサウナと、あと刑務所
が3大ポイント。
そういうとこでどこどこの者で
すって仁義を切って、せっかく入
れた刺青を見せびらかしたいんで
すよ。そんなとき、もし筋しか入
ってないとか、それこそ龍の目だ
けだなんていったら、その人間は
終わりですよ。刺青ってのは皮層
のやわらかいところほど痛いから、
腿とか二の腕とか、腹なんかまで
びっしり墨が入ってたらその痛み
に耐えられたってことで尊敬され
ちゃう世界なんですから。
実は刑務所ってのは刺青情報交
換の場所にもなってるんです。集
団で風呂に入るから、いい彫物を
してれば「誰に入れてもらったん
だ」って評判になったりする。
師匠のとこにいたとき、「同房
の中に先生の刺青を入れたヤシが
いまして、出所したらゼヒ先生に
彫ってもらおうと思ってました」
なんて刑務所を出た足でスタジオ
に来たヤクザもいましたから。
刺青はそれこそ一生もんですか
らね、沖縄からでもなんでも日本
全国から通って来るんです。もっとキナ臭い話を期待してる
んでしよ。カタギの人相手の商売
じゃないから危ないことやってる
んじゃないかって。
そういう世間のイメージは身に
しみて感じてます。商店街を歩い
てても近所の人は顔をそむけない
までも声なんてかけてこないです
しね。ま、当然ですよね。やっぱ
りヤクザが出入りしてるのは恐い
ですから。
けど、ヤクザって暴力的に思わ
れがちですけど礼儀正しいんです
よ。予約した時間には正確だし、
挨拶もちゃんとする。その辺の若
いヤシらなんかよりよっぽどしつ
けができてますよ。
ただ困るのは、彫ってるときや
待ち時間なんかに商売の話をする
ことなんですよ。あの組が最近ど
んなシノギをやってるとか、いつ
の取り引きで覚醒剤が何キロ入つ
くるとか、こっちを信用してしゃ
べっちゃうの。
大人しいいい客だと思ってたら、
何度か通ううちに打ち解けて「実
はオレは指名手配をくらってる身
なんだ」なんて言い出すこともあ
りましたしね。
そうかと思えば、マル暴担当の
刑事が接触してきたりもする。スタジオにちょっと寄ったブリをし
てあの組は最近どうだとか、こん
な話を聞いたことないかとか・
もちろん彫師って商売は、ヤク
ザとの信頼関係がなくなるとやっ
ていけないですから、店で聞いた
ことを口外するようなことはしま
せんよ。
師匠にはその辺も厳しくしつけ
られました。どんなに誘われても
組の人間や警官と個人的に遊んだ
り事務所に行っちゃいけないって。彫蝶氏が師匠に教えられたのは、
刺青を彫る技術だけではなかった。
礼儀作法や他人への言葉使いなど
をみっちり仕込まれた。言葉ひと
つで命のやり取りまでする世界で
生きるヤクザを顧客とするからに
は、そうした人間としての基本が
ないとやっていけないのである。
それとともに言われたのが、自
分たちは職人だという分相応をわ
きまえろということ。
常連の組の幹部が師匠を「先生」
と呼び、弟子にも丁重に対応して
くれる。それを、自分がえらくな
ったと勘違いをしてはいけない。
おごってはいけない。
師匠は川癖のように弟子たちに
言い聞かせた。師匠のとこで8年間修行して、
やっと独立を許されたんですから
はりきりましたよ。師匠の言いつ
けだって肝に命じていた。でも、
だんだんとね…。
オレ、師匠と離れたところに店
を構えたんですよ。縄張りじゃな
いですけど、近くに何人も彫師が
いたら共倒れじゃないですか。客
の人数なんて限られてるんだから、
他の彫師がいないエリアにいかな
いとやってけない。
だからオレはそのときつきあっ
てた女の故郷に店を出したんです。
オレに付いてくるっていう若いヤ
シと2人でチラシとかステ者みた
いなの作って宣伝してね。
彫師って、免許がない代わりど
こどこ一門みたいなグループがあ
るんですよ。オレも師匠がこの世
界で有名な実力者だったから、地
元の組の人たちが徐々に来てくれ
るようになって、順調でした。
1年経つころには月に150万
は入ってくるようになったんじゃ
ないかな。夏はもう少しいくけど
冬はお客が減るから平均はそのぐ
らいでしたね。しかも独立してからは確定申告
もなにもしてないんで税金なし。
客にも領収書なんて切りませんか
ら、突っ込みようがない。
純益で月150万だったら、結
構いいでしよ。それでいい気にな
っちゃったんですよ。
まずね、女に走った。意外に思
うかもしれないけど、彫師って結
構モテるんですよ。ほら、ヤクザ
御用達雑誌ってあるじゃないです
か、アサ芸とか週刊大衆とか実話
ドキュメントとか。ああいうのが
ときどき取材に来たりするわけで
すよ。「若き彫師たち」なんて顔
写真とかも載る。
別に男前とかそういうのに関係
なく、こういう世界が好きな女って多いんですよ。いきなり「彫蝶
さんいますか」って電話がかかっ
てくる、雑誌で見て気に入ったと
か言ってね。
師匠のとこにもそんなのいっぱ
いありましたけど、相手にするな
って厳しかったんですよ。けど、
独立して初めてそういうファンレ
ターみたいなのが来たとき、オレ、
書いてあった携帯番号に電話して
誘っちゃったんです。
もう簡単。向こうは最初からそ
の気で来てるし、オレの背中の龍
見て感動するわ興奮するわで。も
うそれから喰い放題ですよ。
中には店に直接きたオカマもい
ましたね。へソの下に赤いバラを
ワンポイントで入れてくれって。
1時間もかからなかったけど彫っ
てる間中オレをじっと見てて。終
わったら「これでおいしいモノ食
べてください」って5千円チップ
くれた。
まあ、それは別にしても女には
モテるし、組の幹部や親分さんが
オレの店にきて若い衆に彫って
やってくれよ先生」なんて言って
くれるしでオレ、完全に勘違いし
ちゃったんですよ。あるとき、
「組に入らないか」って誘いに
「はい」って言っちゃった。