いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

管理者養成学校、通称地獄の合宿に行ってみたらどんな内容だった?

まだ朝早い中、JR新富士駅を出たタクシーは市街地を通過した後、橋を渡って山間部
へと進入して行った。街を眼下に見下ろすと、向こうには大きな山が見える。富士山だ。

不安を膨らませながら景色を眺める僕に、運転手がぽつりとつぶやく。
「逃げ出してもねえ」
「・・・・。。」
「下の町までは、結構歩くことになるよ」

僕に体験取材の命令が下りたのは、その2週間ほど前のことだった。とある学校の合宿に参加してほしいと言う。

その学校とは「管理者養成学校」といい、いわゆる企業における優秀な人材を育成するための機関だ。
僕は、フリーのカメラマン。管理者になんかなれるはずないし、なる気もない。どうしてそんな学校に入る必要があるのか。

「いや、やっぱどんなこと教えてもらえるのか気になるじゃん」
合宿は目的に合わせて数コース設置されていて、その中の「社長特設、3日間コース」に参加してくれという。

本当なら長期コースが望ましかったのだが、あいにく料金が予算をオーバーするので、13万円の3日コースでいきたいとのこと。
「楽しそうだる、旅行みたいなもんだよ」
勧めてくれるのはいいが、当然のことながら僕は社長じゃない。
こんな人間が参加できるのか。
「いいんだよ。社長だけじゃなくて専務クラスでもOKなんだってさ◎その3日間だけ鉄人社の専務にしてやるからさ」
なんてデタラメな会社なんだ。
いくら企画のためとはいえ、フリーの人間を簡単に専務にしてしまっていいのか。
しかしブッブッ文句を言えるのもそこまでだった。すでに編集は学校に電話して〃岡本専務″を送り込む手続きを済ませてしまったという。
●マネジメントのポイントをつかむ
アイデンティティの確率
●行動力レベルアップ
合宿の目的として、パンフレットには以上のようなことが書かれているが、具体的に何を行うのかは不明だ。
僕は想像を巡らせた。なにせ大の大人が参加する合宿なのだから、内容は推して測るべし。要するに座禅を組んだり、孔子の本を読んで心を落ち着かせたりする、つまりは「ちょっとした教養講座」のようなものに違いない。

場所は、静岡県富士とある。富士山の麓。精神をリラックスさせるには格好の地域じゃないか。
が、編集が隠し持っていた広告を覗き見ると、そこにはこんな文句が書かれていた。
「地獄の特訓」

タクシーは50分ほど走り続け、ようやく緑に囲まれた学校に到着した。芝生に覆われた、だだっ広い校庭を囲む形で3つの建物(校舎)が立っている。それぞれが大きなガラス戸で囲まれていて、全ての部屋が外から良く見えるような造りだ。

校庭では人々が白い体操服のような上着姿でぶらぶらしている。どうやら全員で大声で
歌を歌ったり、呪文のような文句を繰り返しているようだ。あれはいったい何だろう。
校舎に入り、言われるままに入校申し込み用紙に記入。その後、
作業服と布団カバーを受け取り、ペンションの一室のような宿泊部屋で、白い作業服と濃紺のズボンに着替えた。

白い上着と濃紺のズボンそこで初めて先ほどの不思議な集団が自分と同じ立場の人間だということに気づく。いずれ僕もあんなふうになるのだろうか。おびえながらおずおずと集合場所とされる部屋へ。
そこには講師らしき人物が1人、そして彼の前には10人程度の受講生らしき人たちが座っている。

年齢は30代から50代くらいだろうか。頭に白いものの混じってる人もいる。
僕はその受講生の集団に入り、何が始まるのかを他人事のように静かに見守った。

「起立!」
講師が叫ぶ。何が始まるのかとゾロゾロ立ち上がる僕たち。
と、また「起立!」
ここでようやく何をしているのか理解.これは訓練なのだ。
「起立!着席!起立!着席!」
言うだけの講師はいいが、こっちは大変だ。頭と足腰がフラフラしてくる。
10分程繰り返すと、誰師はいきなり破れんばかりの大声で歌い始めた。
「冷た-い、冬の水-、はい!」
はい、と振られてもそんな曲一度も聞いたことのない僕たちはあわあわとするのみ。これもどうやら訓練のようで、唐突に歌われる歌詞を考える間もなく復唱すると、なんらかの効果があるらしい。


その後は、場所を校庭に移動。当然駆け足だ。皆、よろよろと、両手をだらりとさせたまま走り出し
「気をつけええ!」
講師の声が、少し肌寒い富士のすそ野にこだまする。
「番号!」
「1!」「2!」「3!」「4!」
「5‐.」「6!」「7!」「8!」
「9!」
全員の番号が読み上げられた後
は、班長に命ぜられた男が敬礼。
そそくさと講師の前に歩み出てこ
れもまたバカでかい声で怒鳴る。


「報告します・特社(特別社長コースの略)第2班です!総員9名、現在員9名!異常ありません、以上!」
これを何度も何度も繰り返し繰り返しやらされる。
「テキパキやってください。やり直-し!」
「敬礼はどうした。礼儀がなってない、やり直-し」
この屈辱感は何だ。

 

「今日、喝日コースの葉試験があります。みなさんで一緒に覗かせてもらいましょ」
唐突に講師が誘う。僕たちの前
に合宿に来ていた別コースの生徒
たちが卒業していくらしい。

あまり気が乗らないまま行ってみると、30畳ほどある部屋に生徒たちが座り、奥に陣取った講師が1人ずつ順番に名前を呼んでいる。
大きな声で「はい」と返事した男は所定の位置まで走ってくると、お辞儀をして名前を名乗り
「お願いします」と大声で怒鳴り
出した。

「私はああ、管理職とおお、いう
立場にいい、甘んじてええ、自分のおお、職務おおお、全うしてええ、いませんでしたあああ。これからはああ」
内容は卒業後の抱負と、この学
校で学んだことだろうか。目から
は涙があふれている。


固唾を飲んで見守る私たち。こ
の迫力に早くも我が級友である社
長たちはビビリ気味だ。


スピーチが終わると2人の講師
が採点。そして「98点、合格」と判定の声が。すると、嘉門達夫風の講師が飛び出してきて、生徒を抱きしめる。
「やったなああ!がんばったなああ!」

会場は、割れんばかりの拍手に
包まれる。少々クサい場面だが、
誰の目にも涙が浮かんでいたとこ
ろを見ると、まんざら芝居でもな
いのだろう。

今回は、入学者の1割しか卒業できないらしい。不合格者は後2日間「居残り」して、何とかしようと頑張るのだという。見た感じ、合格した3人は涙をダラダラと流し、興奮して自分でも何を言っているのかわからないような人たちだった。

ちなみに嘉門氏はどうやら「抱きしめ要員」らしく、合格者が出るたびに、待ってましたとばかり飛び出してきて強く抱きしめまくっていた。

午後、長机の前でそろばん塾の
生徒のように座っているとプリン
トが配られた。筆記試験だという。
会社でありがちなシーン
「訪問する予定が、同行するはずの上司が現れない。そこ
で、あなたはどうするか」
会社というのはこんなことがあ
るのかと感心しながら、設問をこ
なす。

この得点は翌日壁に張り出され、卒業試験のポイントに加算されるのだそうだ。
あわせて、卒業試験では朗読のテストも行われる。
「部下の拒絶反応にあい、たちま
ち部下の仲間入りをし、会社批判
に走る若者の管理者よ。あなたは、もっとも同情に価しない」

講師によると、朗読のポイントは、怒りなのだそうだ。もちろん部下など持ったことのない僕にはピンとこない。
どうやらこの学校は、合宿期間中に様々なテーマを与えられ、れを卒業試験でクリアしたものが卒業できる仕組みになっているようだ。辛そうではあるが、地獄の特訓と呼ぶのは少し大げさだろう。

「さて、この後、当校の校長が名刺交換にお邪魔します」
ほどなくして、みのもんた氏を
ほうふつとさせる風貌の校長が登
場し、会社論のようなものを一席
ぶった後、おずおずと我が級友の
前に歩み出てきた。自ら名刺交換
のため、ひとりひとりの受講者に
声をかけてまわるのだ。

「ほうほう、先日、同業の社長さ
んがいらっしゃいました」
「○X市からおこしですか。去年
の講演会で行きましたよ」
この3日間コースは、社長に経験してもらった後、社員研修用のコースに若手社員を送り込んでもらう

「営業の機会にもなっているらしい」
それにしても1人1人にあいさ
つとは。ひょっとすると僕の風貌
を見て不審に思うんじゃないだろ
うか。


「おたくはどちらから?」
「あ、鉄人社というところです」
バレるのが怖くて目を見れない。が、社長は一言。
「あああ、そうですか」
ふう、どうやらなんにも知らな
いらしい。ま、そりゃそうか。鉄
人社はこの秋できたばっかりなん
だから。


なんとか初日のプログラムを終え、共同風呂で汗を流す。オヤジが浴槽に浸かり「あああ」だの「うえええ」だのとうめき声を上げている。無理もない、今日1日慣れないことばかりで大変だったのだ。
夜は一部屋に布団を並べて修学旅行のような光景となった。僕は隣のおっさんに話しかけてみた。
「どうしてここに来たんですか」
「いやあ、社長も行ったらどうだって責められてねえ、ハハハ」

どうやら〃無理矢理″送り込まれたのは僕だけじゃないみたいで、他の社長たちもみんなよく似たものだった。自発的な参加者は少数派。大半が、かなり投げやりな雰囲気でやって来ているのだ。
ちなみに、出身地は全国津々
浦々で、一番多かったのは、首都
圏、ついで東海地域(現地に近く
学校の知名度が高いかららしい)。
中には遠く四国や九州から来てい
る社長もいた。
就寝まで1時間ほどのブレイクがあったが、丸1日動いて疲れたのか、会話もまばらなまま消灯である。
暗くなった部屋で、布団に包まりながら僕は思った。
「これぐらいなら楽勝じゃん」

2日目の朝、5時起床でグラウ
ンドに集合。過日コースの生徒た
ちと合同の朝礼が始まった。
「整列」いきなりスピーチと言われても
何を話すんだよ、とシラけていた
ら、過日コースの生徒の間から次々と手が上がり、当てられた男
が壇上に登った。
「おはようございます!」
すがすがしい台詞とはうらはらに、怒鳴っているような大声はまるで右翼の挨拶だ。
「私はああ、今日までえええ、ひたすらあああ」

何を話すのかと思ったら、昨日見た検定の内容と同じ。ここ
ではスピーチと言えばこれなのだ。

「ラジオ第1!」
スピーチが終わると、予期して
いたように体操だ。
「いつち、にい、さん、しい」
オケがないのでかけ声に合わせて体を動かす。


そして乾布摩擦。これもかけ声に合わせて体を縦にブルブルと震わせながら。壇上の講師を覗き見しながら、今は何処を擦ればいいか確認するのだ。
昼間は卒業試験に備え、とにかく歌を覚えることに徹した。校歌と『セールスガラス』。大都会で生き抜く営業マンをカラスに見立てたこの歌は、演歌風のちょっと泣かせる歌詞だ。
「額に汗して作ったものは、額に
汗して売らねばならぬ。涙を流し
て、作ったものは、涙を流して売
るものさ。くよくよするなセ
ールス・ガラス!眼下を見下ろ
し、この街並みで。男の舞を舞っ
てみよ!」
もちろん、聞いたばかりの曲な
のできちんと覚えている人などい
ない。
「セールスーガラースー」
「セールースガーラースー」
「セールスガラースー」
あちこちからオリジナルのメロ
ディが聞こえてくる。かく言う僕
もかなりの作曲センスが自分にあ
ることを発見させられた。


ちなみに、演歌であるはずのこの歌も、演歌風に歌ってはいけな
い。怒鳴るように歌うのだ。でなければ「元気がない」ことになってしまう。

以前、演歌がとてもうまく、北島三郎を敬愛しているという生徒
が入校したことがあるのだとか。
彼は、この歌を歌うのを拒んだ。怒った講師が理由を正すと、「こ
んなものは歌ではない」との答が返って来たとのこと。残念ながら、
僕にはそこまでの歌唱力がないのでここでガッンと言うわけにはいかない。

その後は、『管理職である人間
が心得ておくべき教訓』の暗記に
費やした。もちろんこれも卒業試
験の必須科目だ。

ずぐずと始めるな、時間厳守。
行動5分前には所定の場所で。心
の準備と仕事の準備を整えて待機
せよ
一旦行動を開始したら猟犬のように忠実に、狐のごとく賢く、ライオンの
ごとく勇猛に。最後までやり遂げる不退転の強い意志を持て
どうだ、この気合の入りようは。
しかし、普段ふらふら生活してい
る僕のような人間に、こんなこと
を言わせようたって、ハナシ。

持て、と命令するべき人間がその意志を持ち合わせてい
ないのだから身につくはずがない。
朗読、歌、教訓、この3つを大きな声でふらふらになりながら叫び続けた後、夕方からはグループディスカッションが行われた。いくつかの、例題をピックアップし、
その是非を「賛成」「反対」「中立」
の3つの立場から大いに論争する
というものだ。が、誰も発言しないので講師が陣れを切らす。
「あなたたちは、ヤル気があるのですか」
彼はキラリと光るスルドイ目が印象的な、中背の眼鏡をかけた男性だ。
「あんたら、発言しろって言って
も黙ってる部下がいたら怒るだろうが」
「もおお、言い加減にしなさいよ。経営者なんでしょうが!」

何を言われても動じない社長たち。さすがに腰が座っているというのか。
仕方なく、僕が手を上げる。
「僕は、この例題は正しいと思い
ます。理由は2つあります」
かつて自分が最も優秀な人物と
して扱われる集団に属したことの
ない僕は、とても変な気分になっ
た。フリーの人間とつるむより、
社長さんたちと一緒にいる方が優
越感を覚えるなんて。

最終日は、朝礼が終わるとすぐ
にテストが開始された。
名前を呼ばれるままに、大声で
返事をして前に出る。お辞儀をし
てから名前を名乗り、「よろしく
お願いします」と言った上で、ま
たお辞儀。その後、暗記した文章
を読み上げる。
僕はまずこの手順を覚えるのに
大変で、肝心の暗記した文章がな
かなか出てこなかった。頼みの綱
の歌のテストも「元気がない」と
いう理由で不合格。朗読だって
「それでは、怒りの感情が出てい
ない」と言われる始末だ。焦りだけが募る。
他のメンバーも同じ、というより僕よりダメな人のほうが多く、合格したのはわずかに2人だけだった。

1時間の休憩が与えられると、
みんなめいめいグランドに出て大
きな声で暗記にトライし始めた。
今までダラダラやってきた社長た
ちもついに本気を出し始めたよう
だ。なにせ不合格のままだと帰らせてもらえそうにないのだから。
周りの空気に感化されたのだろうか、僕もここにきてようやくエンジンがかかってきた。

「額にい、汗してえ」
青空の下、大声で歌い、怒鳴る
男たち。まさに僕が到着したとき
に見た半萱皐だ。あのときは不気味
に見えたものだが、いざ当人の立
場に立つと、必死にならざるを得ない。
しかし、何時間も頑張った僕だ
がついにクリアできなかった。結
局、この難関を突破したのは3分
の1.凡帳面そうな人ばかりで、
その中にはあの名古屋の若社長もいた。
而回以上のテストで蕊ついに合格


「それでは、残ったみなさんは卒業できませんが仕方ないですね」講師が言うと、みんな否定もせず黙って領く。
「いいですよね。だって会社は別に問題があるわけでもないし、暗記なんか出来なくったって、明日の業務には差し支えませんよね」
イャミったらしく続ける講師。

「あああ、いいんだあ、もう、あきらめちゃっても」
ここに来て、ひそひそと声が上
がり、ようやく1人が手を上げた。
「もう1回やってみます」
ここで、講師はニヤリ。
「聞こえませんね」
「もう1度やらせてください!」
渋々というブリで応じる講師だ
が、目は優しい。結局、全員に再
挑戦のチャンスが与えられた。
だが、覚えていないものは覚え
ていないのであって、いくら気合
いを入れても暗唱できるわけがな
い。僕はかろうじて、歌と朗読の
テストをクリアしたものの、相変
わらず、暗唱はてんでだめだ。
ここで、またしても講師の助け船が。


「3人1組になって、分担すればなんとかなるでしよ
3人が横一列に並んで、講師に
当てられた者から順番に暗唱して
いくわけだ。しかし、量が3分の
1になればなんとかなると思った
が、これもダメ。3人集まったっ
て無力な3人じゃ意味がない。い
くら僕が自分のパートを覚えても
他の2人が足を引っ張るのだ。業を煮やした講師が叫ぶ。
「誰か、助けてあげてください」
3人組の中に、すでに合格して
いる優秀な2人を入れ、受け持ち分担を軽くしてくれたのだ。
5人が横に並ぶ。
「それじゃ、あなたから!」
5人の中では最もにぶいと思わ
れる姪子能収に似たオヤジがトッ
プバッターに。
「。。。。」
最初のタイトルさえ言えない蛭子氏。
「行動力基本動作十カ条だよ」
小さな声でみんながささやく。
「こここ、行動、なんだつけ?」
辺りに尋ねる姪子氏。
「衝動力か.それで、ええと。基
本?基本だな、基本動作十ケ条」
続いて、助っ人の1人がすらす
らと続ける
「第1条。ぐずぐずと始めるな、
時間厳守。行動5分前には所定の
場所で。心の準備と仕事の準備を
整えて待機せよ」
次は僕の番だ。
「第3条。行動は、完結を旨とす。
一旦行動を開始したら猟犬のよう
に忠実に、狐のごとく賢く、ライ
オンのごとく勇猛に」
自分の受け持ちを言い終わって
一安心。後は残りの2人が無事言
い終えるのを待つだけだ。
次はもう1人の助っ人、名古屋
の若社長。
「第8条。いかなる困難に直面し
ても、目的を放棄せず、時が深厚
に及ぼうとも最後までやり遂げ
る、不退転の強い意志を持て」
ラストバッターは、僕の左隣の
眼鏡の男性。少し神経質そうなタ
イプだが、知能は高そうで、どこ
となく品のよさが漂う。
「第9条。こここ、行動は…」
後が、続かない。ここで、講師
の冷たい一言。
「時間オーバー、失格!あなたの
せいで、みんな卒業できませんね」
最後の最後で失格。また一から
やり直しだ。
こんな調子で何回挑戦しただろ
う、蛭子氏は、周りの人にささや
かれるままになんとかクリアする
ようになった。問題は最後の眼鏡
の男性である。
チャレンジ何回目ぐらいだろう
か、4人が言い終えて、また最後
の眼鏡の番に。
鬼気迫るスタートだ。
「ここ行動は、め命令者への…」

一一一一領きながら続ける眼鏡。
「結果報告を、まま待ってか完
了する」
よし、よく言えた。後一文だ。
「や、やりっぱなしは、なな何も
しないより」
いいぞ、あとちよい。
「まだ、わわ悪い!」
やった、言えたじゃないか。
重苦しい沈黙破って、講師が
答える。
「はい、剖・5秒、合格!」
眼鏡は泣き出している。僕もな
んだか、知らないうちに皆と抱き
合っていた。こうして、1人の落
伍者を出すこともなく、僕たちは
卒業式に出席することになった。

この後は、みんなで今回の研修
中に感じたことに関する作文を書
いた。
合格が出た途端、泣き出した社
長も何人かいたワケだから、かな
りウマイ演出法だ。さすがに、教育のプロ。もしこんな先生が中学
にいてくれたら、僕でさえも、も
っとまつとうな人間になっていたかもしれない。

「叱ることと、誉めること」は本当に徹底されてい
た。これは、確かに昨今の教育に
欠如していることではないか。
作文を終えると、卒業式が始まった

3日間行動を共にした講師
が生徒の名を読み上げ、1人1人
に額に入った証書を手渡す。
その後は、グラウンドに集合だ。扇形に並び、気を付けで待機する。
卒業生を代表してスピーチ。ホテルオーナーという社長が挨拶だ。

「どうも、ありがとうございまし
た。いろんなことを学びました」
辺りでは在校生も厳かに見守っている。

最後まで暗唱に手間取っていた
眼鏡がやはりここでも手間取りな
がら、酒を杯に注いでまわる。僕
のところに来たときには、その腕
は振るえ、恩いつきり僕の腕に酒
をかける始末。
「ご、ごめんなさい。」
「いいつすよ。」
目には、涙が浮かんでいる。
「この杯を受けてくれ。どうぞ、
なみなみ受けてくれ」
壇上でも、すでに涙交じりのホ
テルオーナーが、枯れんばかりに
声を張り上げる。
「花に嵐の例えもあるさ」
杯を突き出す。
「さよならだけが人生だ!」皆、杯を飲み干し、合図と共に
白い作業服を宙に投げ捨てた。