いろんなお仕事・バイト職業図鑑

ブラック仕事も儲かりそうな楽しい仕事もいろんなお仕事・バイトの体験記です。

プレミア商品を入手し高額転売するためにホームレスを集める並ばせ屋というお仕事

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寒風吹き付ける新宿西口の高層ビル街にその行列はあった。並ぶのは男、男、男。薄汚い恰好をした男ばかりが一列になっている。ざっと100人はいるだろうか。彼らが心待ちにするのはカレーの配給。つまり炊き出しである。毎週木曜日17時ごろから都庁近くの歩道で行われており、男たちからは久々の食糧にありつける安堵の表情が見て取れる。その行列に並ぶ男たちに次々と声をかける男性がいた。グリーンのコートにスラックス姿。はたから見れば気のよさそうな普通のおじさんだ。彼の職業は「並ばせ屋」だ。転売ビジネスって知ってます? プレミアがつくと予想される限定商品を購入して、ネットで売りさばくことで利ザヤを得る商売です。これを生業にしている転売業者ってのが何人もいるんです。
たとえば、限定10体のフィギュアが発売されるとします。定価は1万円だけど、転売すると3万円になる。10体全部買い占めれば20万の儲けです。しかし、買い占めるためにはそれ相応の人員が必要不可欠です。他に一般のお客さんが買いに来るのだから激戦が起こって当然ですよね。そこで業者は私のような「並ばせ屋」に依頼し、行列に並ぶ兵隊の頭数をそろえるわけです。つまり、転売業者が並ばせ屋に依頼して、並ばせ屋がホームレスたちに声をかけ、商品の行列に並ばせるという仕組みです。新宿だけでも競合他社の並ばせ屋が5つあります。他は電気屋とかスマホ屋とか、それぞれ得意の転売業者とつながりを持ってます。電気屋ってのは、地方のヤマダ電機のセールに行く連中です。毎週コンスタントに仕事があるので集める規模も大きいです。私の場合は玩具と洋服がメイン。最近の流行りはシュプリームってブランドの洋服。靴はイージーブーストっていうアディダスのスニーカーです。これらのプレミアは元値の2、3倍は当たり前で、10倍になることもしばしばなので転売業者からの依頼も多いのです。一見、簡単そうに見えますが、並ばせ屋ってのは意外と奥が深い。ホームレスを集めて、はい終了ってわけにはいかないんです。なのに特別に儲かるわけでもないんですよ。
いくら高額のプレミアがついたとしても、私個人に転売業者から支払われる金額は、集めたホームレス1人につき500円です。1日に20人のホームレスを集めて、限定品の発売日に並ばせたとすると、私の取り分は1万円。20人も集めてやっと1万円ですから、平均で月に5、6万くらいの収入です。あくまでも副業ですね。依頼は転売業者からラインで来ます。例えばこんな文面です。
『3月10日の土曜日に原宿でアディダスの新作スニーカーが発売されます。20人ほど必要です。ホームレスへの並び賃は一人1500円でどうでしょうか?』
この並び賃というのは、転売業者からホームレスに支払われる金額です。つまり、転売業者は並ばせ屋とホームレスに別々で支払いをするのです。私に支払われる金額は500円で一定ですがホームレスへの賃金は並びの過酷さによって決まります。冬に一晩並ぶなら5千円。朝2時間並ぶだけなら千円が相場でしょうか。ラインで連絡が来たら、転売業者と電話で相談します。
20人じゃ足らないから人数を増やした方がいいとか、スニーカーは転売対策で店員が身分証のチェックをするはずだから免許証を持ってる奴が必要だ、とかね。これで人数と金額を確定します。そしてようやく炊き出しに行って、列に並ぶ男に声をかけます。
人員を確保するには炊き出しに参加するのに限ります。定期的に行われるし、時間のあるホームレスを効率的に集めることができるからです。一度にこれだけの人数のホームレスが集まる場所は炊き出し以外にないですから。私が集めに行くのは主に新宿と池袋。新宿は都庁近くのカレーの炊き出しで池袋はサンシャイン60の近くにある東池袋中央公園です。こっちは土曜日に、おにぎりとぶっかけご飯の炊き出しがあります。炊き出し以外なら新宿駅の地下通路も絶好のスポットです。深夜にホームレスが寝てますから。上野とか山谷にも炊き出しはありますけど、身なりがよくないのが多いんです。
並ばせる人間を選ぶには、この身なりが重要なんです。あからさまに汚い恰好だと、店員から白い目で見られるし、最悪の場合、店から追い出されることもある。ストリートファッションのブランドなのに、ドカジャンを着た老人が並んでいたら違和感がありますよね。なので、なるべく若くてイイ服を着ているやつに声をかけます。また、免許証のように写真付きの証明書を持っているホームレスも貴重な人材です。最近は転売業者に対して厳しい店が増えていて、購入の際に免許証の提示を求める場合があります。免許証を持つホームレスは少ないですからね。所持してるのは10人に1人くらいの割合ですので、大切にしなくてはいけません。もし、証明書を持っている人を集められなかった場合は、転売業者が用意します。それぞれの顔写真を転売業者に送り、年齢とか背格好が近い保険証や社員証を偽造、もしくは入手するのです。
炊き出しの行列に並んでいる人の中から、行列に並んでくれる人を探すってわけです。
おもしろい話でしょ?
新宿の炊き出しは17時に開始されますが、ホームレスが並び始めるのは14時ごろなので、私は少し早めに行って声かけをします。結局、人集めは早いもの勝ちなんですよ。
ギャラがいいか、並ぶのは辛くないかでスグに判断されちゃう。だから信頼関係を作っておくことも大切です。私の場合はホームレスたちに顔が売れてるので、炊き出しに行ったら必ず声をかけられるんです。
「今日は仕事あんのー?」って。そしたら交渉スタートです。
「今週は仕事あるよ」「どこ? 場所は?」「業者から連絡来てんのは表参道ヒルズだね」「土日?」「いまのところ土曜日だけ。交通費コミコミでギャラは2千円なんだけど、どう? いつも安くてすまんねえ」「うん、いいよ。どこ集合?」
「新宿東口の交番裏のタクシー乗り場。時間は朝の4時半かな。で、山手線の36分の始発に乗っていくよ」「了解」
「んじゃ、よろしくね。名前教えてもらえる? あと、どこで寝てるの?」
「亀井です。中央公園の入り口近くですね」「はい。じゃあよろしく」
いつも、こんな感じです。名前と普段寝てる場所をメモして次の人にあたるわけです。これを人数が集まるまで続けます。並ばせる人が決まったら、転売業者に並びに行く人の写真を確認のために送ります。これだけの人数を集めることができましたよって。これで準備は完了です。当日に待ち合わせ場所に集合したら、名簿と照らし合わせて、あらかじめ買っておいた電車の切符を彼らに渡してショップへ移動します。切符を買うお金がない人もいるので、表参道などでの現地集合は難しいんです。始発の電車に乗って目当ての店の前に着いたら開店時間まで並んで待ちます。このとき転売業者と合流して、私のギャラとホームレスへのギャラ、そして商品の購入費用をそれぞれ受け取ります。しかし、並びのホームレスにはまだ現金は渡しません。持ち逃げされる可能性があるからです。最近ではリスクを回避するために、商品の購入代金を商品券やクレジットカードで代用する場合もあります。商品券は盗まれにくいですし、クレカもスグに停止させればいいので、盗まれることが少ないんですね。そして私自身も見張りを兼ねて一緒に並びます。まれに逃げる奴がいるんですよ。ソワソワしてる奴がいたら要注意です。やっぱり待つだけでも精神的にしんどいんですよ。なのでコンビニでおにぎりを買ってきて差し入れしたり、順番にトイレやタバコの休憩を挟んで息抜きをさせます。
開店時間が近づくと店員が整理券を配るので、並びはいったん解散します。整理券の当選結果が発表されたら、当たった人には購入代金を渡し、無事に商品を買ってきたところでギャラと交換します。
ハズレた人にもギャラは支払います。並んでくれたわけですからね。その場合はハズレ整理券とギャラの交換です。その後、ハズレ整理券と商品を転売業者に渡して1日の業務が終了です。私が並ばせ屋を始めるようになったのは13年前。なので40才のころです。それまでは中学を卒業してから、ずっとホテルのウェイターをやっていたんですけど、30半ばくらいのとき、ギャンブルで金をスッて家賃を払えなくなったんです。
それがきっかけで路上生活を始めました。当時は紀伊国屋の隣にビックカメラがあって、その近くで寝泊まりしてたんです。やっぱり最初は怖かったですね。でもまわりのホームレスに寒くない寝床を紹介してもらって、雨風をしのげる場所で仲間たちと一緒に過ごしてました。そのときに初めて並ばせ屋に仕事をもらったんです。最初は自分が並ぶ側の兵隊だったんですよ。初めての仕事は一回500円で原宿のマスターマインドってドクロマークのアパレルブランドに並びました。
それから5、6年は並びの仕事を続けていました。でも、人ってのは徐々に欲がでるもんです。並ばせ屋の人と業者の間で万札が飛び交ってるのを目撃して、自分も金が欲しいって思いはじめたんです。人を集めるのは大変そうだけど、金があんなにもらえるなんて羨ましいと、まさに羨望のまなざしを万札に向けてました。そんなことを考えてたら、仕事を紹介してくれていた並ばせ屋が体調を崩して引退したんです。それで、転売業者が後任を探してるってことで立候補したんです。並ぶ側から並ばせる側に転職したわけです。
そこからは試行錯誤の連続でした。いきなり人を集めようにもノウハウもなにもないですから。とりあえず周りにいる人に声をかけて集めていきましたけど、イマイチ人数を揃えることができない。そこで、他のホームレスと積極的に会話するようにしたんです。「いまどこに住んでるの?」「ちゃんと食えてる?」
とか、友達同士みたいに接するのを心掛けるようにしました。やっぱりホームレスって孤独な奴が多いんですよ。だって毎日ずっと一人でしょ? たまに炊き出しで知り合いに会っても、配られ終えたらハイ解散てなもんだから寂しい人が多い。だから私は人を集めるために優しく接して話し相手になりました。私自身人当りはいいほうだし、コミュニケーションが好きなので。そしたら、多少並び賃が安くてもついてきてくれるようになったんです。他にも信頼関係を築くために、努力しています。
夏の暑い日にはガリガリ君を人数分買ってあげたり、冬の並びにはあったかい缶コーヒーやホッカイロの差し入れをします。他の並ばせ屋の中には差し入れの金額をホームレスのギャラから天引きするやつもいますが、私は絶対にそんなことしません。必ずポケットマネーから出します。天引きされるぐらいなら、自分で欲しいもの買いたいのが人間ですよ。また、並ばせる人だけでなく、販売する店にも親切にするのを心掛けました。何度も同じ店に行くので店員には顔を知られてしまうものです。なので、ヒマな日に店に行って売れ残りの品を買ったりして、店員ともコミュニケーションを図ります。
これをしておくと、後で当たり券を増やしてくれたり余ったサイズのものを定価で売ってくれることもありました。順調に人を集めていたら、他の転売業者にも声をかけられるようになりました。
「鈴木さんのところは評判がいいから、俺のところでも並ばせてよー」ってね。そうやって仕事を拡大していたら、3つの転売業者から合同で依頼を受けたことがありました。水曜日に新宿の伊勢丹メンズ館でクジを引くだけの仕事でしたが、70人の並びが必要だったんです。大規模にもかかわらず突然の依頼だったので、人数を集めるのに苦労しました。業者から仕事をもらったのは前日だったので公園の炊き出しに行く余裕がなかったんです。そこで、当日の朝に行われている炊き出しを調べました。幸い新宿5丁目にあるインマヌエル教会ってところで朝5時に炊き出しが行われるという情報を聞きつけて、集めに行きました。「一人千円でこれから2時間並ぶだけだよ。すごい楽だよ」と何人にも声をかけてやっと70人が集まったのです。しかし問題はこの後でした。並びを終えて、近所の神社で整理券と現金を交換しているときのこと。業者からは千円と聞いていたつもりだったのですが、実は業者が提示していた金額は500円だったのです。それを知ったホームレスたちが怒っちゃって、警察が現れる始末です。結局その分を私が補填することになって、その日はタダ働きになりました。せっかく70人も集めたのに、もったいなかったです。3万5千円もらえるはずだったんですけど…。
3年前に中国人の転売業者から依頼を受けたこともありました。原宿のアパレルブランドが一週間セールをするらしく、5人の並びが必要ってことで。私の取り分はいつもどおり1人頭500円ですが、ホームレスへのギャラは、夏の炎天下に一週間、毎日泊まり込みで並んでなんと8万5千円です。この条件を聞いて、もちろんホームレスたちは飛びついてきました。こんなまとまった現金が入ってくることなんてまずありませんから。中国人からは店にあるものは何でもいいからカゴに入れろって指令を受けていたので、靴下、Tシャツ、パーカー、なんでも買わせました。いざ、会計のときに中国人がポケットから現ナマの1千万をだしてたのには心底驚きました。おそらく一日に百万円以上は使っていたと思います。店が閉店したら、次の日の朝まで店の前で泊まり込みです。最初の2、3日は我慢できましたけど、連日の熱帯夜で徐々に疲労が溜まってきて、歴戦のホームレスたちの間でも、帰りたいって声が大きくなってましたね。だけど、最後まで終わらないと、中国人が私たちにギャラ支払ってくれないので、なんとか説得して並んでもらいました。ホームレスたちは、中国人を一発殴って1千万盗んだ方がいいんじゃないかって話をしてましたよ。
なんとか、一週間の仕事に耐えて、彼らに賃金を払ったときは身体から達成感があふれてきました。みんなでやり遂げた一週間だったので感動もひとしおです。この仕事がきっかけで積極的に私の依頼を受けてくれるようになったホームレスもいます。多少ギャラが安くても、この前儲けさせてもらったお礼だからって。そうやって人との関係が生まれるのが、この仕事のやりがいですかね。